幼なじみの男たちのセンチメンタルな物語は、俳優の組み合わせが肝腎だ。炭焼き職人として煤にまみれて生きる紘を演じる稲垣吾郎は、その丸っこい鼻が慕わしい。父(石橋蓮司)の中古車販売業を手伝う光彦を演じる渋川清彦は、人の良さ丸出しで観る者をリラックスさせる。そして久しぶりに帰郷した瑛介を演じる長谷川博己は、すらりとした美しい身体に屈託を抱えている。この組み合わせに阪本順治監督独自のセンスがあふれ、わくわくさせる。
いったい何が起こるのかと言えば、たいしたことは起こらないとも言えるし、重大極まりないことが連続して起こるとも言える。人は自分の体験に囚われ、それを大事にしすぎるきらいがある。それを端的に表現するやり取りがこれだ。
「おまえらは世間しか知らない、世界を知らない」と瑛介に言われた紘は「難しいこと言うなよ」と返す。だがしばらく経ってから「ここも世界だ」と言い切る。自衛隊員として紛争地の悲惨さを目の当たりにし、部下を亡くした瑛介は、地方都市の平凡に見える日常をだいぶ侮っているようだ。
しかし平凡な日常にもひりひりする人間の営みがある。それが徐々にあぶり出され、中盤からぐっと力を増していく画面に胸が熱くなる。生きていると、なんでもない些細なことが、ときとして非常に重くなるのだ。幼なじみ三人で一枚の毛布にくるまって海を眺めるシーンがある。しばらくあとに、今度は紘と息子の明(杉田雷麟)が一枚の毛布にくるまる。いじめられている息子はそうやって父を知る。父は息子に何かを伝え、それがラストの明の決意になる。
阪本順治監督ならではの青春の匂いを感じさせるのが、瑛介が明をかばって暴れるところだ。光彦とその父(石橋蓮司)の中古車販売所で、難癖を付ける客を痛めつけるところも、観ていて心躍る。瑛介の生きて来た過程が見えるようであり、彼がなぜ自衛隊員になったかがわかる気がする。彼は何かを成し遂げた男だということもわかり、それがやはり、ラストの明の姿に通じる。
ここに阪本順治監督の傑作『どついたるねん』(1989)を見出すのは当然で、気恥かしいほどだ。よく言われることだが、作家はデビュー作に帰る。それは作家の青春の出発点であり、それを託された明の未来はたくさんの可能性に満ちているということがわかる。少年は父の“非業の死”を乗り越え、母を守るために強く大きくならなければならない。それがしっかり伝わる。
忘れるところだった。紘の妻であり明の母である初乃を演じる池脇千鶴が素晴らしい。彼女はそもそも実力派で知られるが、今回は持てる力を随所で的確に簡潔に発揮する。夫の焼いた炭を有名旅館に売り込みに行く様子の可憐さには見惚れるばかりだ。彼女は三人のマドンナだったのだろう。
(内海陽子)
半世界
©2018「半世界」FILM PARTNERS
配給:キノフィルムズ
2019年2月全国ロードショー
監督:阪本順治
出演:稲垣吾郎 長谷川博己 池脇千鶴 渋川清彦 小野武彦 石橋蓮司