わが世代には忘れがたいシンガーソングライターのりりィは、女優としてもいい仕事をしている。『パーク アンド ラブホテル』(2007)では屋上に公園のあるラブホテルの女主人という初老の役をさらりと演じて、若き日を知るわれらに複雑なため息をつかせた。このたびは、海辺の町の老人介護施設「うみねこの家」の介護ヘルパー、波江役で気を吐く。ペットボトル片手に貫録を見せる彼女の手元をよく見れば、その中身は焼酎である。そう、老人介護は酒でも飲まなければやっていられない力仕事&汚れ仕事なのである。

 最初の大敵はシモの匂いだ。地元暴力団にその施設の面倒を任された主人公、彦一(草彅剛)はその匂いに動じないところを波江に見込まれる。彦一が逃がしたコンビニ強盗(堺正章)は元極道で、刑務所で死亡した。その娘、葉子(安田成美)は認知症の母(草村礼子)と子ども二人を抱えて必死に生きている。かつて彼女と恋仲だった照生(香川照之)は父親の地盤を継いだ二世議員として鼻息が荒く、暴力団の貧困ビジネスの撲滅を公約に掲げる。しかし、徐々に惹かれ合うようになる彦一と葉子から目が離せず、気が気ではない。

 まもなく暴力団のあこぎな貧困ビジネスに我慢できなくなった彦一は、この状況を変えようと立ち上がる。その様子が生き生きとしてすばらしい。任侠エンターテインメントと呼ぶべき映画の中で、老人介護施設の実態が細部まで描きこまれた作品はあまりない。介護施設訪問を売りにする一団の行動を皮肉るシーンなど、かなり辛辣だ。熱海にオープンセットを建てて施設の撮影に臨んだそうで、その効果はありあり。草彅剛の引き締まった顔とあいまって、この映画に懸ける西谷弘監督とスタッフ、キャストの熱意がひしひしと伝わる。

 恋の三角関係のゆくえ、暴力団と二世議員の対決、身体を張った彦一の男気と、見せ場が連続し、最後に施設再建の希望がしっかり残る。たとえ予定調和といわれようと、りりぃが温かな表情で施設に戻ってくるところは他人事でなくありがたい思いがする。人々が帰って来たいと願う場所などそうそうあるはずがなく、そういう場所を作り出したという一点において彦一の存在は輝く。おまけのような大立ち回りを見せて去っていく彦一が、次にどこへ行き、何をするのかぜひとも見続けたい。任侠道、まさにここにあり。
                             (内海陽子)

任侠ヘルパー
2012年11月17日(土)全国東宝系ロードショー
公式サイト http://www.ninkyo-helper-movie.jp/