メル・ギブソンが久々にやってくれた。そんな極めつけのアクション大作である。今回は監督を新人のエイドリアン・グランバーグに任せ、メル・ギブソンは、プロデューサー、脚本、主演に専念。
最近のメル・ギブソンの映画界でのキャリアが下降の一途だったのは、ご存知だろう。かつての売れっ子スター、アカデミー賞監督とは思えない状況だった。飲酒運転に差別的発言、さらにDV疑惑などが、立て続けに報道され、そんな彼の様子を心配しながら見守ってきたファンも多いことと思う。
『キック・オーバー』は、メル・ギブソンが中年の危機を乗り越えて完全復活した爽快感に満ちた作品なのだ。『マッドマックス』のスターもすでに56歳。『キック・オーバー』でスクリーンに大写しになった姿には、かつての美貌はない。それでも見ているうちに、メルの内面のエネルギーは確実に伝わってくる。渋みをまとった野生とひょうきんなバランスの良さが心地よい。
『キック・オーバー』のストーリーと設定の面白さも格別だ。刑務所内がひとつの街になっていたメキシコに実在していた魔界を完全再現している。メルが演じているのは、そこに入れられてしまう名前の無い謎のアメリカ男なのだが、決して善人ではないし、かっこ良くもない。そう思うのもつかの間、いつしか、彼の一つ一つの動きに見惚れてしまう。やはりスターはどこまで行ってもスターなんだと、改めて確認させてくれる痛快作。
(オライカート昌子)
キック・オーバー
10月13日(土)、 新宿バルト9ほか全国ロードショー
R15+
オフィシャルサイト kickover-movie.com