世の中には夢を叶えたごく少数の人たちとそれを成し遂げられなかった大多数の人々がいる。しかし、必ずしも前者が勝ち組で後者が負け組であるわけではない。ただし、いつも映画でスポットライトを浴びるのは前者である。
しかし、本作は後者が主役。だからこそ貴重な作品といえる。まさに底辺からスタートして底辺で終わったしまう人たちの奮闘記を底辺からスタートして夢を実現させた吉田恵輔監督が描いている、この構図はボクには痺れた。
タイトルが示すとおり、本作は二人の人物が主人公である。ばしゃ馬こと馬淵みち代(麻生久美子)はシナリオライターを目指している34歳。彼女はまさにばしゃ馬のように原稿を書き、シナリオコンクールに応募するが一次審査で落ち続ける日々を送っている。バイト先のチケットショップでも時間があれば原稿を書き続けている彼女は映画業界とのコネを作ろうとシナリオスクールに通うことになるが、友達に『またスクール通うの?』と言われてしまう始末である。
はっきり言えば10年以上もシナリオスクール巡りをし、一次審査も通過できないという時点で明らかに才能がない。しかも、今だにシナリオの基本講座の授業を受けている、という点がかなり痛い。この手の夢から抜け出せないダメダメさんの現実を見せてくれる作品なので意地悪なボクとしては思い当たる誰かを想像して鑑賞中にニヤっとしてしまうところが多かった。
一方のビックマウスこと天童義美(安田章大)はシナリオライターを目指している28歳。一本も原稿をシナリオコンクールに送ったこともないのに名刺にはすでに『脚本家』と書いている彼はシナリオスクールに通うことになり、たまたま外にある喫煙スペースでみち代に出会うことになる。ちなみに、彼は甘い缶コーヒーが好みでブラックコーヒーを飲めないという設定になっている。一方のみち代の飲み物はいつもブラックの缶コーヒだ。要するに好みのコーヒーが甘いのか?ブラックなのか?という違いで今まで通ってきた人生の甘さや苦味を表現しているのだろう。
以上のようにみち代と義美は正反対の描かれ方をしているが、実はみち代は過去にビックマウス発言をしていたという過去が出てくる。しかし、現実の厳しさを知ってしまい、謙虚になってしまったのだ。この二人は6歳差なので、ビックマウスの義美が6年後にはばしゃ馬になっている、ということは予想できる。
話の軸としては義美が一目惚れしてしまったみち代への恋は果たして成就できるのか?みち代がどうやって夢を諦めるのか?そして義美のビックマウスがいつ現実の壁に潰され、ばしゃ馬になるのか?という3つの軸がある。
要するに現実を知ることで二人が人間的な成長をとげる、という話なのだがそれと絡み合うようにシナリオスクールの現実が描かれている点も面白い。
具体的にはシナリオルクールの講師は脚本家として食えていない人間がやっている、という点だ。また、スクールの中でどうしても友達を作ってしまいプロの物書きになるつもりだったが彼らがその半径3メートル感覚の小さな世界で遊びや恋愛を楽しんでしまうことにより素人としての完成形ができてしまう、という部分がとても興味深い。
また本作は昭和テイストを出している、という点も特徴的だ。
たとえば、みち代と義美が合コンに使う居酒屋は赤ちょうちんが出ている浅草のお店だし、義美が執筆のために泊まった民宿には100円を投入すると、ある一定時間だけアダルト
ちゃんねるが映るテレビがある。なお、義美の母親が受付をしているソープランドもいかにも昭和のお店、という感じで味がある。
さらに言えば映像に関しても8ミリっぽい撮り方をしたカットがいくつか出てくる、この映像は綺麗なので是非チェックしてもらいたい。
なお、劇中に『あくまでもこれはシナリオの参考にしたいんだけど、私(俺)がもし○○って言ったらどうする?』という、みち代や義美のセリフが何回か出てくる。これは、主に口説き文句で使われるのだが、やはり才能のない人間の吐く口説き文句ほどほど寒いものはないということを痛烈に感じさせられた。
以上書いてきたように本作は恋愛やバイトに没頭するあまり夢が逃げていき年齢が経つことで追い詰められていく若者たちの現実を厳しく見せてくれる映画なのだ。
是非、夢を追い続けている人もそうでない人も本作を見て楽しんでもらいたい。 (小野義道)
2013年 日本映画/コメディ・恋愛/119分/監督:吉田恵輔/出演・キャスト:麻生久美子(馬淵みち代)、安田章大(天童義美)、岡田義徳(松尾健志)、山田真歩(マツモトキヨコ)、清水優(亀田大輔)、秋野暢子(天童育子)、松金よね子(馬淵絹代)、井上順(馬淵治)ほか/配給:東映
11月2日(土)全国公開
公式サイト http://www.bashauma-movie.jp/