クリント・イーストウッド、御年90歳。

映画『リチャード・ジュエル』は彼の監督作40本目となる。

確固たるビジョンを持ち、余計なテイクを繰り返さず、早撮りする。

いつの間にやら、ウディ・アレン(84歳)のハイペースを抜いてしまった。

製作開始が昨年4月。同6月にキャスティングが決まり、

その11月にはワールド・プレミアという離れ業には驚いた。

レオナルド・ディカプリオやジョナ・ヒルも製作に名を連ねる

この新作は、『ジャージー・ボーイズ』(14)、『アメリカン・スナイパー』(14)、

『ハドソン川の奇跡』(16)、『15時17分、パリ行き』(17)、『運び屋』(18)に

続く、いまやイーストウッド証となった実話の映画化である。

1996年開催のアトランタ・オリンピック爆破事件の「容疑者」と

その母親を中心に、ふたりを呑み込む司法とメディアを描いたものだ。

警備員のリチャード・ジュエルはオリンピック開催で沸く

アトランタ中心部の公園で不審なバッグを発見する。

それは、無数の鉄くずが仕込まれた手製の爆弾だった。

とっさに公園の群衆を避難させ、一夜にして英雄となったリチャードだったが、

現地のメディアが第一発見者リチャードを容疑者であるかのように書き立て、状況は一変していく。

彼の味方は、息子を溺愛する母親ボビと知り合いの弁護士ワトソンだけ。

この日から3人対アメリカ国民の闘いが始まるのだが。。。

イーストウッドいわく、「権力のある人たちが何かで非難されるという話は

よく聞くが、彼らにはカネがあり、それなりの弁護士を雇うことができる。

そして起訴を免れる」

これが、映画『リチャード・ジュエル』製作の起爆剤なのだろう。

共和党支持で知られるイーストウッド。

さきの大統領選挙では、共和党トランプの応援には回らなかったが、

メディアの言葉狩りには疑問を呈していた。

「皆なとても注意深くなっている。いまはそんなご機嫌取りの時代だ」

「ほんとうに軟弱な時代になった」とコメントしていた。

24時間メディアに繋がり、考えることをやめ、

映像こそ真実と疑わない世の中への警鐘かもしれない。

他人と違うことを恐れ、嫌われないように取り付くる。

こんな危機感も映画『リチャード・ジュエル』の原動力なのだ。

世の流行り「プロファイリング」にも言及している。

FBIが持つ過去の膨大な犯罪データから導き出される犯人の動機と特徴。

製作秘話には、こんな一文がある。

「事件当時、政府機関はプロファイリングにこだわっていた。だから爆破事件

後の大混乱の中でFBIは爆発物の第一発見者であるこの風変わりな男を見て、

『ほら、孤独な爆破犯のプロファイルに完全に合う』と考えていたようだ」

小太りで職務に対して実直なリチャード・ジュエルに扮するのは、

これまた実話の映画化『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』(17)で

強烈な印象を残したポール・ウォルター・ハウザー。

その母親には、S・キング原作のホラー『ミザリー』(90)でアカデミー賞に

輝いた名女優キャシー・ベイツがあたる。

一見無謀な弁護士役は、いまや業界引っ張りだこのレインメーカー、

サム・ロックウェル。キャシーとはアカデミー賞俳優共演となるわけだ。

物語の見所をさらうFBI「嫌われ役」には大ヒットTVドラマ『MAD MEN

マッドメン』(07〜15)のハンサム男、ジョン・ハムが登場。

彼のリークによって世紀の誤報を扱うこととなる新聞記者に

(ヒット作に恵まれない)オリビア・ワイルドが熱演(熱艶)する。

オトコは、彼女のためなら何でもしてあげたくなる(笑)と思うはず。

案外、ここが映画もう一つの見所です。

ユーモアついでにもう一つ。

今回もイーストウッドの面白ネタがゴロンゴロンと転がっている。

「MASH」「O・J・シンプソン」といった業界ネタから、「ライフル協会」

「ニクソン」「同性愛」の社会ネタまでお見逃しなく。

追伸。

こんなレビューを書いていたら、思わぬニュースが飛び込んできた。

この『リチャード・ジュエル』の製作会社ワーナー・ブラザースが、

映画製作の意思決定段階でAIを導入するらしい。

膨大な過去データから、どの企画を採用すべきかの指標の

一つをAIが提供することになるんですとさ。

はたして、AIは正しい判断を導き出せるのでしょうか。

前述のプロファイリングのミス、肝に銘じなかったの?

まずは、イーストウッド監督に相談してみてはいかがでしょう。

(武茂孝志)

『リチャード・ジュエル』

2020年1月17日(金)より全国ロードショー

監督:クリント・イーストウッド

脚本:ビリー・レイ

撮影:イブ・ベランジェ

美術:ケビン・イシオカ

編集:ジョエル:コックス

音楽:アルトゥロ・サンドバル

キャスト

ポール・ウォルター・ハウザー

サム・ロックウェル

キャシー・ベイツ

ジョン・ハム

オリビア・ワイルド

ニナ・アリアンダ

イアン・ゴメス

2019年 アメリカ映画

2020年 日本公開作品

原題:RICHARD JEWELL

上映時間:131分

スコープサイズ:5.1chリニアPCM+ドルビーサラウンド7.1(一部劇場にて)

字幕:松浦美奈

映倫区分:G

配給:ワーナー・ブラザース映画

ⓒ2019 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC