
お笑いと幽霊。不思議な取り合わせだ。『死に損なった男』はヒューマンドラマとコメディ、ホラー(薄味)とアクション(もっと薄味)、そして人情が入り乱れる。まるで旅館の夕飯のようにいろいろな料理を豪華に並べてみせて、落としどころも上手い。
欠点もある。主演の関谷一平を演じている水川かたまり(空気階段)をのぞいた面々のオーバーな演技だ。お笑い芸人が多数出演しているので舞台風味なのだろう。
映画自体は自然体。関谷一平の脱力しきった個性がリズムを刻む。役割上、力が入らないのも無理はない。冒頭では覇気なくうろうろしている。たいやき屋の前でボーッと立ちすくむ。内心もう生きていかれないと思っている。
だが彼は死に損ねてしまう。そこに現れた幽霊は、彼に無理難題を押し付けてきた「ある男を殺すまでつきまとってやる」
幽霊に付きまとわれるのは嫌なので、とりあえず話を合わせる。そこからの展開が『死に損なった男』のストーリーだ。
意外なリアリティを感じる部分がある。関谷一平の部屋には普段日本映画でお目にかからない世界がある。お笑い界の成功者はそういうものなのかもしれない。お笑いの事務所もそう。そのリアリティは本物だ。あの幽霊にもリアリティがあるのだろうか。幽霊というよりも生きている人間そのままなのだけれど。
リアリティといえば、『死に損なった男』は、今の日本を取り巻く疲弊感と閉塞感が生み出したストーリーだ。みんなが満足してリラックスして毎日を暮らしていたら、この話は成り立たない。その透けて見えるリアリティは、何があっても生きていれば喜びもあるということも提示している。映画の残り香だ。
長編監督デビュー作「メランコリック」が国内外で数々の映画賞を受賞した田中征爾が、監督・脚本を手がけたオリジナルストーリー。
死に損なった男
2025年2月21日(金)、全国公開
配給:クロックワークス
©2024 映画「死に損なった男」製作委員会
出演:水川かたまり 正名僕蔵 唐田えりか 喜矢武豊 堀未央奈 森岡龍 別府貴之 津田康平 山井祥子
監督・脚本:田中征爾
コント監修:板倉俊之 音楽:Moshimoss
撮影:ふじもと光明(JSC) 照明:江川斉 美術:中川理仁 録音:高島良太
プロデューサー:藤本款 宇田川寧 田口雄介
製作プロダクション:ダブ 製作幹事・配給:クロックワークス
2024年|日本|109分|シネマスコープ|5.1ch
©2024 映画「死に損なった男」製作委員会