
驚きと興奮に満ちた映画。映画の冒頭は、どこかのバー。少女は客らしいが、何となく様子が変だ。ちょっと派手目な女友達と「ここにいることを彼氏には言えない、嘘がばれる
かもしれない」などと話している。やがて彼女は、店内で中年の男性と話をした後、タクシーでどこかへ向かう。自分を一日中待っていた祖母の姿を車窓から確かめながら。

少女の恋人と名乗る青年の登場で、一見穏やかに見えた情景が一転。荒々しさを孕んだドラマへと変貌する。サスペンスに近い緊張感と恐怖にみるみるうちに引き込まれ、唐突なラストで幕を閉じる。少女のついたいくつかの嘘、亡き妻の面影を少女に見る老人、彼と少女の不思議な絆・・・。余計な説明はなく、観客に想像させる余裕を与え、否応なしに興味を持たせる演出の見事なこと。こういうものこそ監督の手腕が問われる。シンプルでいて力強い映画だ。
(池辺麻子)
ライク・サムワン・イン・ラブ
9月15日(土) ユーロスペースほか全国順次公開
2012年/日本・フランス共同製作/109分/配給:ユーロスペース