『ジュピター』映画レビュー

『ジュピター』は、『マトリックス』以来のアンディ&ラナ・ウォシャウスキー姉弟によるオリジナルのSFアクションだ。

2015年のアカデミー賞主演男優賞を受賞したエディ・レッドメインが、宇宙を支配する王族の一員として悪の権化を演じている。地球の全生命を手のうちに握っているうえ、優雅なドレスを身にまとい、神経症的で線が細いのに、とてつもなく邪悪という、刺激的な役柄だ。

エディ・レッドメインが悪役を演じるのは初めてではない。『HICK ルリ13歳の旅』では、クロエ・グレース・モレッツ演じる家出した少女、ルリにつきまとい、ついには捕らえてしまう男の役だった。人好きがするのに人を寄せ付けない空洞を心に持つ、足に障害を負った男。気味の悪さも抜群だった。

だが、彼が悪役に向いているかというと、そうは思えない。演技がうますぎるのだろう。悪に染まってしまった悲しさのようなものまで伝わってきて、こっちは同情を覚えてしまう。そんな同情は、映画によっては邪魔になる。

SF冒険映画のステレオタイプな悪役なら、同情なんて覚えない。中年で恰幅のいい、エゴの塊のような男が悪役ならば、単純に映画を面白がるだけだろう。

『ジュピター』には、ショーン・ビーンも出演している。悪役には定評があるショーン・ビーンが派手な悪の演技を見せてくれたら、どれほど楽しかっただろうか。

『ジュピター』のキャスティングは、見る前の期待を、わざと反らしているようだ。エディ・レッドメンが悪役を演じ、ショーン・ビーンは主人公の親友を演じる。その期待を反らすやり方は、キャスティングだけはなく、世界観でもそうなのだ。

宇宙を舞台にした冒険SFのはずなのに、恋愛パートがある。『シンデレラ』や『美女と野獣』を思い出させるシーンさえある。ヒロインはミラ・クニスで、ヒーローは、チャニング・テイタムだ。二人とも、世界で一番セクシーな女優、俳優に選ばれたこともある人気者なので、スクリーンに姿を現すだけで、ぐっと華やかさが増す。

狼とのハイブリッドを演じるチャニング・テイタムのまっすぐでひたむきな演技は、個人的にこの映画の一番の好感ポイントだった。だが、チャニング・テイタムにやらせると、ストリッパー(マジック・マイク)ても、オツムの弱めな新米警察官(21ジャンプ・ストリート)でも、まっすぐさと懸命さにほだされて、応援せずにいられなくなる。むしろ、そういうところがあるからこそ、チャニング・テイタムは、新世代の「ザ・スター」になりつつあるのだろう。

(オライカート昌子)

ジュピター
公式サイト 
2015年3月28日(土)新宿ピカデリー、丸の内ピカデリー他全国ロードショー
公式サイト http://wwws.warnerbros.co.jp/jupiterascending/index.html