あら、めずらし、アイスランド映画である。

アイスランドと言えば、あれを思い出す。

昨年、ワールドカップに初出場した人口35万人の小国アイスランド。

そのアイスランドが、優勝候補アルゼンチンに1対1で引き分けた

テレビ視聴率が、驚異の99•6パーセントだった。

残り0•4パーセントは何か。

「その0•4パーセントは、競技場にいたオレ達さ」

この雄叫びに再びアイスランドは歓喜に包まれた。

ワールドカップ史上、これほどカッコイイ会見はなかった。

クレバーでユーモアに溢れた国民性が見えた瞬間だった。

2013年の10月。第26回東京国際映画祭で上映されたアイスランド映画

『馬々と人間たち』の興奮も忘れられない。

人間の欲望を、馬の視点で綴る傑作だった。

●惹かれ合う男女より先に、互いの馬同士が先に結ばれてしまう滑稽。

●ロシア船のウォッカを追って、厳寒の海に馬ごと飛び込むアル中の哀れ。

●猛吹雪の大地で馬の腹を裂き、その中で一夜を過ごす男の狂気。

北極圏ギリギリに位置する島国アイスランドならではの語り口がいい。

劇中には、「確固たる自己責任気質」「伝統的自給自足の精神」、

そして「完全なる男女平等論」があった。

『馬々と人間たち』は、強い絆で結ばれた馬と人間が繰り広げる数々の奇想天外が話題となり、最優秀監督賞を獲得した。

その時、ベネディクト・エルリングソン監督はこう語っている。

「この映画のヒーローは馬々でも男たちでもなく、女性たちです。

物語を引っ張る原動力は女性だし、そもそもアイスランドでは

女性たちが生活を支える大きな力になっているのです!」

そんなベネディクト監督の新作が、『たちあがる女』である。

新作のヒーローもやはり、「女性」だった。

アイスランドのひとりの女性。

前作同様、トリッキーなおとぎ話である。

アイスランドの自然を愛する独身女性、ハットラ。

合唱団の講師をしながら、養女を迎える準備をしている。

ハットラには、母親になる前にやり遂げなければならないことがあった。

自然環境を守るため、巨大アルミニウム工場を潰すこと。

ひとりランボーの出で立ちで、今日も送電塔のケーブルを切りに行く。

広大な溶岩台地で、ヘリやドローンの追跡から必死で逃げ回るハットラ。

やがて政府はある方法で、ハットラを追い詰めていく。

観客はまず、唐突で攻撃的なオープニングに心奪われるだろう。

ハットラのぶっとい腕が、ギシ、ギシッと音を立て弓を引いていく。

ビーン!と反った鋼から放たれる矢。

その矢には仕掛けがあり、次の瞬間、頭上の送電塔が火を吹く。

この原始的な画の流れに誰もが興奮するはずだ。

これぞ、映画! と身を乗り出すだろう。

一見、シー・シェパード風な過激さも匂わせるが、

自宅の2枚のポスターが映し出されると納得できるから不思議。

はたして最後の最後まで続くエキセントリックな展開も、

場面ごとに登場する「男性ばかりのブラスバンド」と

「女性ばかりの民族合唱団」が、ハットラの心情や状況を

的確かつユニークに表現してくれて、これまた粋な演出だ。

先の来日時、ベネディクト監督はこうも語っていた。

「アイスランドの映画業界に台風が迫っている。

新しい政府になって映画の予算が40パーセントもカットされ、

僕ら映画人は震えている。これまでは年に5〜7本は製作されていたけれど、

これからはもっと減っていくと思う」

監督2作目となるこの『たちあがる女』完成までに5年もブランクがあったのは、こうしたアイスランドの映画製作事情があったのか?

すでに各国の映画祭で、作品賞、女優賞、さらに観客賞まで獲得し、注目を得ている『たちあがる女』は、ジョディ・フォスター監督・主演でリメイクも決定しているという。

申し訳ないが、リメイクは失敗作に終わるだろう。

前述のアイスランド気質から生まれた唯一無二の物語であって、

決してハリウッドものではないからねぇ〜。

アキ・カウリスマキや、ロイ・アンダーソン映画のハリウッド・リメイクなんて

興味あるかい? ないでしょ。

『たちあがる女』は、今後の北欧映画を占う意味でも大切な映画だと思う。

(武茂孝志)

『たちあがる女』

3月9日(土)YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開

監督・脚本:ベネディクト・エルリングソン

出演:ハルドラ・ゲイルハルズドッティル、ヨハン・シグルズアルソン、ヨルンドゥル・ラグナルソン、マルガリータ・ヒルスカ

2018年 / アイスランド・フランス・ウクライナ合作 / アイスランド語 / 100分 /
カラー / 5.1ch /英題:Woman at war / G / 日本語字幕:岩辺いずみ  
配給:トランスフォーマー
後援:駐日アイスランド大使館

(C)2018-Slot Machine-Gulldrengurinn-Solar Media Entertainment-Ukrainian State Film Agency-Köggull Filmworks-Vintage Pictures