岩手県出身のミュージシャン、松本哲也の実体験の映画化。可愛くて純情で、いくぶん思慮が足らず、つい不運を招き寄せてしまう母・扶美江(鈴木砂羽)と過ごした日々と、成長する彼の苦悩を描く。やくざと結婚して覚醒剤中毒になり、幼い哲也を児童養護施設に預けざるを得なくなった扶美江は、勤め先のスナックで会った男と恋に落ち、一緒に暮らし始める。まもなく哲也は施設を出て母のもとへ帰るが、母の暮らしぶりに落胆し、非行の道をひた走る。
ついに病み衰えた扶美江は、出前のちらし寿司もろくに食べられなくなる。しかし、もう哲也(石垣佑麿)のことは心配いらない。ミュージシャンとして名を成し、しっかり自分の足で立って未来へ向かっている。ひとりでたばこを吸いながら「おわりかあ」とつぶやく扶美江の透きとおった表情は、孤独感と充足感を同時に伝え、安易な同情を静かに拒絶する。母になること、母でいることもまたハードボイルドな生きかただと語るかのようだ。彼女が“ユキちゃん”と名づけたユキヤナギの花が窓辺にきれいに咲く。その花言葉は一例では「愛嬌、気まま、自由、殊勝」だとある。鈴木砂羽によって丁寧に演じられた扶美江は、世界一愛らしい「ユキヤナギ」に変貌した。
(内海陽子)
しあわせカモン
1月26日(土) ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー