『荒野はつらいよ ~アリゾナより愛をこめて~』 レビュー

(C) Universal Pictures
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日本も含めて、映画『テッド』は、世界的な大ヒット作品だった。人気の理由のひとつには、可愛らしいぬいぐるみの熊が生きていてしゃべり、なおかつ、やさぐれたオヤジだったら? というアイデアがあったと思う。世間的なイメージを裏切るズレの大きさが興味と笑いを引き出した。

そのアイデアマンのセス・マクファーレン監督の新作は、「現代的オタク青年in 西部開拓時代」の『荒野はつらいよ』である。原題は『A Million Ways to Die in the West(西部で死ぬための100万通りの方法)』だ。 原題は残して欲しかった。生命の危険に満ちた西部開拓時代で、銃も撃ったことがないオタク青年は生き残れるのか、そこがテーマだからだ。ラストシーン近くでは、それがせりふにもなっている。

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今回のギャップは、平和的な羊飼いのオタク青年が、当時ではありふれていた”悪”と戦うというもの。 西部に生きていることを常日頃から愚痴ってばかりいる彼が、オタク知識を武器に立ち向かっていく。主人公を演じているのは、テッドの声でも有名なマクファーレン監督自身だ。今回が初主演。彼だけではさすがに物足りないのか、シャーリーズ・セロンやアマンダ・セイフライドなど超豪華なメンバーを揃えている。ここでもキャラクターイメージを裏切る仕掛けが満載だ。

正義のイメージが強いリーアム・ニーソンが、極悪人のクリンチ・レイザーウッド役だ。怖さ満点の演技はともかく、恥ずかしいシーンもあるが、そこはコメディと割り切っているらしく、プロフェッショナル魂を全開にしている。テッド以上の下ネタのオンパレードで、男性俳優はみんな少なからず被害を蒙っている。

カメオ出演陣も豪華だ。デロリアンとドクだけでなく、テッドに続いてライアン・レイノルズも顔を出すし、ジャンゴの扮装でジェイミー・フォックスも出演。ユアン・マクレガーも、カウンティ・フェアのシーンに出演しているらしい。

極め尽くした下ネタの多さにもかかわらず、『荒野はつらいよ』の作りは、しっかりウェスタンになっている。細かいところに手抜きはなく、西部に生きる男の世界はしっかりと心に届く。そんな硬派な部分が一番のギャップなのかもしれない。そして『荒野はつらいよ』は、ボーイ・ミーツ・ガールの物語でもある。「荒野でまともな相手を探すハウツー」でもあるのだ。下ネタを避けずに、ぜひ女子にも見て欲しい映画である。 (オライカート昌子)

荒野はつらいよ ~アリゾナより愛をこめて~ 
10月10日(金)TOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー
配給:シンカ/パルコ