「第26回東京フィルメックス」始動

11月21日(金)〜11月30日(日)に実施される
映画ファン垂涎「東京フィルメックス」は今年で26回目を迎える。
このほど注目のオープニング作品とクロージング作品が発表された。

● オープニング:
ベネチア国際映画祭女優賞作品『太陽は我らの上に』

ツァイ・シャンジュン(蔡尚君)監督の『太陽は我らの上に』は、
2011年のフィルメックス特別招待作品『人山人海』、
2017年の同コンペティション作品『氷の下』に続くツァイ監督の長編第4作。
9月のベネチア国際映画祭コンペティション部門でワールドプレミアされ、
主演のシン・ジーレイ(辛芷蕾)が最優秀女優賞に輝いた話題作だ。

『太陽は我らの上に』
The Sun Rises on Us All(日掛中天) / 中国 / 2025 / 131分 /
監督:ツァイ・シャンジュン (CAI Shangjun 蔡尚君)

きっかけは、病院での偶然の再会だった。
かつて恋人関係にあったメイユンとバオシュウは、長い別離を経て、
再びお互いの人生に深く関わることになる。
メイユンには既婚者の恋人がおり、彼の子どもを妊娠したばかりだった。
だが、刑務所を出て同じ街で暮らすバオシュウが末期がんだと知り、
メイユンは彼を自らのアパートに迎え入れ、治療に専念させようとする。

本作では、共通の秘密によって痛ましくも絡み合った男女の愛憎が描かれる。
数年前、男は女の犯した罪の責任を被って入獄した。
しかし、わずか1年ほどで、女は新しい人生を始めてしまう。
刑期を終えた男は、自己犠牲が無駄に終わり、
愛が憎しみへと変化した世界へと足を踏み出す。
秘めた過去を抱えた男女の葛藤をスリリングに描いた本作は、
寡作なツァイ・シャンジュンの待望の長編第4作。
2011年の『人山人海』(ベネチア映画祭監督賞)や
2017年の『氷の下』に続くフィルメックス上映作品となる。
愛と憎しみ、そして贖罪の不可能性について描かれたこの物語は
ときに容赦なく展開し、観客の心を揺さぶるだろう。
生々しい映像によって、倫理的に複雑な物語を繊細かつ重厚に描く
ツァイの作風はここにきて新たな高みに達している。
本作はベネチア映画祭のコンペティション部門で上映され、
主演のシン・ジーレイ(辛芷蕾)が女優賞を獲得した。

● クロージング:
ベルリン監督賞『大地に生きる』

フオ・モン(霍猛)監督の『大地に生きる』。
急速に変化する1990年代初頭の中国農村部を10歳の少年の目から
見つめたフオ監督の長編第3作。
今年2月のベルリン国際映画祭コンペティション部門で
ワールドプレミア上映され、監督賞を受賞した。

『大地に生きる』
Living the Land(生息之地) / 中国 / 2025 / 129分 /
監督:フオ・モン (HUO Meng 霍猛)

1991年の中国。
3人きょうだいの末っ子チュアンは、家族と離れ、別の村の親戚に預けられる。
両親が兄姉を連れて南部の都市・深圳に出稼ぎに行くことになったからだ。
大家族のなかで元の苗字のまま生活している彼は、
村に完全な帰属意識を持つことができずにいたが、
それでも曾祖母や叔母の愛情に包まれながら日々を過ごす。
10歳の少年の目を通して、激動期の中国の知られざる一面が描かれる。

本作では春から冬にかけての農村の日常が、
辛抱強く、偏見のない観察的な視点で描かれていく。
当時の中国は工業化が急速に進行していたが、
主人公の少年の暮らす農村には電話も近代的な農業機械もなく、
村民たちは外界からほぼ隔絶された状態にある。映画は筋書きよりも、
葬儀や結婚式といった人生の節目の出来事を通して展開する。
登場人物たちはそれらの出来事に巻き込まれ、
彼らが望むと望まざるとに関わらず、不確かな未来へと導かれる。
その過程で、健全なものもそうでないものも含め、彼ら・彼女らが
どのように物事を受け止め、
重労働から政治的抑圧に至るまで様々な苦難にいかに対処し続けているかが
明らかにされていく。
ありふれた人間ドラマでありながら、季節が移り、人生が続いていく中で、
両親や上の世代の辛苦を新しい世代がどう受け継ぐのかという問いに、
抵抗と絶望の間で揺れ動きつつも、この作品は真摯に向き合っている。
ベルリン国際映画祭のコンペティション部門でワールドプレミア上映され、
銀熊賞(監督賞)を受賞した。

なお、東京フィルメックスのコンペティション部門を含む全ラインナップ、
上映スケジュールなどは10月中旬以降の発表となるので乞うご期待。

また、本祭に先駆けて11月14-18日にはプレイベントを今年も開催。
今回は香港で話題のビジュアルカルチャー美術館M+(エム・プラス)が修復した
「香港ニューウェーブ」の重要作品3本を一挙上映する。
香港映画界はもちろん国際的にも大きな影響を残した新潮流の最初の一波を
スクリーンで目撃するチャンスとなる。

(武茂孝志)

「第26回東京フィルメックス」
期間 : 2025年11月21日(金)~11月30日(日)
会場 :有楽町朝日ホール、ヒューマントラストシネマ有楽町