
映画『青春ゲシュタルト崩壊』は、愛らしくて微笑ましい映画だ。最初からそうだったわけではないけれど。主人公に降り掛かってくるのは厳しい現実。冒頭で流れるセリフはこうだ。「学校は魚でいっぱいの水槽に見える。魚の餌は人の噂や悪口」。
みんなに頼られ、バスケ部の先生にもお気に入りの間宮朝葉(渡邉美穂)は、バスケ部の仲間たちが自分に対して陰口を言っているのを聞いてしまった。その中には親友もいた。当然気落ちしてしまった。そんな朝葉に信じられない事態が襲い掛かってきた。
鏡に写った自分の顔がぼやけている。スマホのカメラも自分の顔を認識しない。状況がよくわからない。ショックのあまり学校の廊下の鏡を割り、その場に崩れ落ちてしまった。朝葉を保健室まで連れて行ったのは、朝比奈聖(佐藤新)。髪を金髪に染め、派手な見た目を持つ彼は教師から目をつけられている同級生だ。
浅葉の症状は、「青年期失顔症」のようだった。人のためだと思っていろいろ尽力してきたけれど、自分の本音と向き合ってこなかったから、そんなことが起きてしまったのだろうか。
言いたい気持ちはあるけれど言えない本音。まわりを見渡し、どう思われるか気にしてしまう。それが一番になってしまって、その場限りの笑顔でやり過ごす。学生であろうと社会人であろうと同じことだ。
『青春ゲシュタルト崩壊は、もう一度自分に触れ、生き直すことを描いている。人にどう思われるか気になって自分の気持ちと触れ合うことを怠ってしまうのは、私にも覚えがある。言いたいこと、やりたいことを表現する時に立ちふさがるおそれ。それを感じたときには、「水槽」と鏡を思い出してみるのもいいかもしれない。
原作は丸井とまとの同名青春小説。スターツ出版が運営するケータイ小説サイト「野いちご」から生まれた小説で、小説コンテスト「野いちご大賞」で、第5回大賞作品となった。「野いちご」は10代、20代の学生へ向けた恋愛・青春小説が無料で読める投稿サイトだが、そこから生まれた原作は、2023年「夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく」、「交換ウソ日記」、「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」が実写映画化され、いずれも大きな話題となった。ちなみに「青年期失顔症」は『青春ゲシュタルト崩壊』の小説の中でのみ描かれている症状だ。
⻘春ゲシュタルト崩壊
6⽉13⽇(⾦)全国公開
配給︓NAKACHIKA PICTURES
Ⓒ映画「⻘春ゲシュタルト崩壊」製作委員会
◎出演︓佐藤新(IMP.) 渡邉美穂
⽥辺桃⼦ 新井美⽻ ⽔橋研⼆ 濱⽥⿓⾂ 藤本洸⼤ 河村ここあ 福室莉⾳ 愛来
⼾⽥菜穂 / 瀬⼾朝⾹
◎原作︓丸井とまと「⻘春ゲシュタルト崩壊」(スターツ出版刊)
◎主題歌︓「⻘空」マルシィ (UNIVERSAL SIGMA)
◎脚本︓三浦希紗 ◎⾳楽︓牧⼾太郎 ◎監督︓鯨岡弘識
◎企画・プロデュース︓横⼭祐⼦ ◎プロデューサー︓伊藤聖
◎配給︓NAKACHIKA PICTURES ◎制作プロダクション︓AX-ON