不覚にも、『天国でまた会おう』の冒頭で、ショーン・ペン監督の『インディアン・ランナー』(1991年)を思い出してしまった。

古くから、インディアンの言い伝え。

獲物を射止めたら、狩人はランナーのように獲物に急ぐ。

まるでキスをするかのように獲物の最期の息を吸い込むことで、

獲物の魂は狩人に宿る。

これが命を落とす獲物への恩義、と説く。

なぜだろう。

『天国でまた会おう』の冒頭は、このシーンを連想させた。

この映画は死を予感させ、死を目前にした男の走馬灯なのだ。

これから始まる物語は、死んだ男の寓話なのだ、というイメージ。

こんな突飛押しもない感想をアルベール・デュポンテル監督に囁いたら、

「ムッシュ、イイ加減なことを言うでない。

それは、ありえない。ノン、ノン、ノンだ」

と、一蹴されてしまった。でもね。。。

すぐ後、「な〜るほど、そんな、オモシロイ捉え方、あるかも、な」という監督の笑みもあった。

『天国でまた会おう』は、フランス文学界で最も権威あるゴンクール賞を受賞したピエール・ルメートルの傑作小説の映画化である。

戦場で死にかけた二人の帰還兵が、当時の上官、そして帰還兵に冷たい世の中にひと泡吹かせようと一世一代の犯罪をしでかす物語だ。

本国フランスで公開されるや大ヒットを記録し、昨年のセザール賞でも大量13部門でノミネートを果たした作品。

見事、「監督賞」「脚色賞」「撮影賞」「美術賞」「衣装デザイン賞」に輝いた。

アルベール・デュポンテル監督は、ギャスパー・ノエ監督の『アレックス』やジャン=ピエール・ジュネ監督の『ロング・エンゲージメント』などで、役者としてもつとに有名。

今回は原作を脚色し、メガホンを持ちつつ、主演となる帰還兵の一人を演じている。八面六臂の大活躍だ。

原作を読みましたが、映画は大きく違う展開を見せますね。

監督「原作者のピエール氏は、私に完全なる自由を与えてくれました。しかし、唯一難色を示したのがラストのエピソードです。この映画のラストには、統計学的にはありえないくらい奇跡的な出来事が待ち受けています。しかし何と言われようと、あのシーンは正しい選択だったと今でも自負していますよ」

とても映画的興奮がありましたよ、あのシーンは!

だからこそ、あのラストは原作を読んだ観客にも許されるのだと思います。

そして美術! とくに1910年代のパリ街中の佇まいはまるで飛び出す絵本のペイジをめくっていくような楽しさでワクワクしました。

監督「3D映画でもないのに奥行きがあって豪華だったでしょ。もちろん、通りの向こうは特殊効果だけどね(笑)。これぞ映画のマジック!」

劇中に登場する手作りの仮面も相方の帰還兵エドゥアールの喜怒哀楽を的確に表現できて、独特なセンスを感じました。

監督「仮面制作アーチスト、セシル・クレッチマーの功績。彼女が創作した仮面も、原作に登場する仮面とは違ったものばかりです。それぞれ、陽気、悲しみ、皮肉、逆上などが瞬時に見て取れる。ピカソ、(レオナール)フジタ、エゴン・シーレ、、、創り上げた仮面には、ヨーロッパ芸術の黄金期である当時のエッセンスが溢れている」

『天国でまた会おう』は、映画愛にも溢れていましたね。

冒頭の『突撃』、『西部戦線異状なし』、中盤の『街の灯』、終盤の『カサブランカ』などなど、映画ファンならみな顔を緩めるはずです。

監督は、どんな映画がお好きなのですか?

監督「20代で影響を受けたのは、コーエン兄弟とかテリー・ギリアムの作品。アメリカに渡ってからのポール・ヴァーホーヴェンとか、デヴィッド・リンチも好きですね。ただ、キューブリックのようなシンプルさは監督としての私が成し得なかった部分かな」

もう少し具体的に言うと?

監督「詩的な部分を大胆に映像化できるところ。私にはまだ、教科書的というか、学術的なところが残っている。たとえば、フェリーニの『81/2』なんかは、監督の感情に委ねたおおらかさがある」

嗜好の映画というわけですか。

監督「黒澤明監督の『夢』。この映画の1エピソードで、スコセッシがゴッホを演じたけど、史実としての物語を、その枠を取っ払って監督の感情に任せて撮ったのが『夢』だと思う。あれが映画の究極のカタチだと思っている。ブニュエルの『アンダルシアの犬』も然り。シュールレアリズムやダダイズム映画の作風が私の羨む姿です」

そんなアルベール監督の次回作は?

監督「うん、『さようなら、馬鹿者たち』(仮)という映画。空気が汚染されて、呼吸すら困難な地球の人たち。そこは自殺志願者でいっぱいだ。なに不自由なく暮らすには、それなりの階級が必要となる世界。。。。。。あえて言うならば悲しいホラ話かな。それを面白おかしく描いていく寓話です」

ブラック・コメディ。

監督「ほら、そういう風にひとつのジャンルに定義付けられるのが嫌いなんですよ。なぜ、枠にはめたがるのかね」

また、怒られちゃったよ。

突飛押しもない独自の感想と質問で始まったインタビュー。

「様々な捉え方があっても、最高にハッピーになれる映画でした」、

と伝えてインタビューは終わり。

「晴れて天国に迎えられたような印象を残す映画でした。だから、タイトルの『天国でまた会おう』はピッタリですね」とサインをお願いしてみた。

これがその一枚。

奥の髭男が、監督で主演のアルベール・デュポンテルさん。

数ある中からアルベール監督が一番気に入った仮面がコレなんだって。

「撮影後、唯一持ち帰った仮面」という。

アルベール監督、ありがとう。

天国(映画館)でまたお会いしましょう。

(文/取材 武茂孝志

『天国でまた会おう』

3月1日(金)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国で公開

監督:アルベール・デュポンテル


脚本:アルベール・デュポンテル、ピエール・ルメートル


原作:ピエール・ルメートル『天国でまた会おう』(ハヤカワ・ミステリ文庫)
出演:


ナウエル・ペレーズ・ビスカヤート


アルベール・デュポンテル


ロラン・ラフィット


ニエル・アレストリュプ


エミリー・ドゥケンヌ


メラニー・ティエリー


上映時間:117分


配給:キノフィルムズ/木下グループ

(C)2017 STADENN PROD. – MANCHESTER FILMS – GAUMONT – France 2 CINEMA (C)Jerome Prebois / ADCB Films