人生の特等席の画像
© 2012 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
 クリント・イーストウッド主演の映画は見下ろしてはいけないような気持ちになる。なるべく前方の席にすわり、画面に圧倒される態勢になって深呼吸すると、物語が優しく沁みてくる。『人生の特等席』のイーストウッドは、老いて前立腺炎を患い、緑内障で視野が欠け始めたメジャーリーグのスカウトマン、ガスである。引退をほのめかされて意地になったガスのスカウトの旅に、新鋭弁護士に成長した娘のミッキー(エイミー・アダムス)が付き添う。ガスはおせっかいな娘を邪険に扱う。お馴染の苦虫を噛みつぶしたようなイーストウッドを見て、そう、最初はやはりこの顔でなければとわたしはニンマリする。

 ガスの娘というより孫のような年齢のエイミー・アダムスは、2013年公開『マン・オブ・スティール』(スーパーマン最新作)でロイス・レーンを演じる。可愛いだけでなく気性がしっかりしているところがイーストウッドのめがねに叶ったのだろう。スーツが似合えばジーンズも似合い、怒った顔も沈んだ顔も、むろん笑顔もいい。ジャスティン・ティンバーレイクが明るく演じるライバル球団のスカウトマン、ジョニーが惹かれるのも当然だ。娘が父を見守るいっぽう、父も娘を見守る。そして両者がなぜぎくしゃくしているのかということが、ミステリアスなサイドストーリーになる。

人生との特等席の画像
© 2012 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
 この映画はブラッド・ピット主演『マネーボール』(2011)と正反対の構造だ。『マネーボール』では、客観的データを重視して選手をスカウトする男が主人公で、野球の伝統に固執する頑迷なスカウトマンが愚か者に描かれた。こちらでは、データに固執するスカウトマン(マシュー・リラード)が鼻もちならない男に描かれる。どちらが正しいかではなく、どちらも当事者の観察力、洞察力、判断力の問題だということである。てっとりばやい方法はどこにもなく、自分の情熱と能力をフルに発揮してこそ、本物の成果をあげられるのだ。

 目ではなく“耳”で真の才能を探り当てる父と娘のすばらしき共闘には胸が熱くなる。ミッキーは “野球のわかる女”として父の代理を立派に果たす。「三等席の人生だ」と呟く父から、なぜ一人娘を手放して別々に生きて来たかという理由が明らかにされ、彼女の胸のわだかまりも解ける。ラストシーン、わたしはカメラが俯瞰で捉えるガスの後ろ姿を胸一杯に吸い込み、最上席にいる幸せを満喫する。                                   (内海陽子)         

人生の特等席
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