『RHEINGOLD ラインゴールド 』映画レビュー 実話のおかしみと衝撃

『RHEINGOLD ラインゴールド』が実話の映画化だからといって、なめてはいけない、とんでもない。とてつもないエネルギーと快楽と楽しみが襲ってくる映画だ。ドイツで大ヒットを記録。主人公は、ドイツで知らない人はない人物、カターだ。
 
冒頭から凄い。場所は砂漠。シリアだ。三人の男が、刑務所に移送されてくる。一人は主人公のジワ・ハジャビ(エミリオ・サクラヤ)、通称カター(危険な奴)、ちなみにジワには、困難という意味がある。もう一人はジワの青年期からの友人、サミー(フセイン・トップ)。三人目は、ジワの少年期からの友人ミラン(アルマン・カシャニ)。ジワとサミーは、ドイツ国籍を持つ難民で、ジワはクルド系、サミーはパレスチナ系。ミランは、パリに住むクルド系富豪の御曹司だ。

彼らは何をやらかして、砂漠の過酷な刑務所で過ごすことになったのか。それがわかるのは映画の後半だ。

ジワの生まれて最初の記憶が、刑務所というのだから壮絶。その後難民となり、ドイツに移住。父は名のある音楽家、母は伝説の戦士並みの女傑。だが、ジワは抗うことができずに、犯罪ライフに染まっていく。

「女は二度決断する」「ソウル・キッチン」など、受賞歴も多いファティ・アキン監督作品。監督自身、トルコ系ドイツ人。中東系登場人物の魂や考え方の描き方が深くリアルで優しい。ちなみに『RHEINGOLD ラインゴールド』は監督の最大のヒット作だ。

実話ならではの、あり得ないストーリーが展開していく。そう、フィクションでは、あり得なくても実話だからこそ成立するものがある。語り口は軽快で、楽しさがまぶされている。哀しい場面も暴力場面も、犯罪シーンにさえ、おかしみが漂う。これが、ファティ・アキン監督の個性なのか。

例えば、父が家を出ていくシーン、妹が父の足をがっしり抱いて、動かない。父はジワに「ピアノの練習は続けなさい」と言いながら、妹の手を足から引きはがし出ていく。

ラインゴールドとは、ラインの黄金。リヒャルト・ワーグナーの代表作である舞台祝祭劇『ニーベルングの指環』4部作の「序夜」に当たる。『RHEINGOLD ラインゴールド』の映画の中では、二度登場する。「人を不滅に導く黄金」として言及もされる。

ジウにとっての黄金は、なんだったのだろうか? それは、エンドロールとその前に登場する彼のラップ音楽からうかがい知ることができる。

なんて途方もない映画であり、とてつもない人生、そして音楽なのだろうか。『RHEINGOLD ラインゴールド』は、エネルギッシュに黄金探しの旅に招き入れてくれる。私たちの黄金とは、何なのか、どこにあるのだろうか。

(オライカート昌子)

RHEINGOLD ラインゴールド
3月29日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネマート新宿、
Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国順次ロードショー!
©2022 bombero international GmbH & Co. KG / Palosanto Films Srl / Rai Cinema S.p.A / Lemming Film / corazón international GmbH & Co. KG / Warner Bros. Entertainment GmbH
Photo© 2022 Bombero Int. _ Warner Bros. Ent. _ Gordon Timpen

監督・脚本:ファティ・アキン
出演:エミリオ・ザクラヤ、カルド・ラザーディ、モナ・ピルザダ

140分/1.85:1/2022/ドイツ語、クルド語、トルコ語、オランダ語、英語、アラビア語/ドイツ・オランダ・モロッコ・メキシコ 日本語字幕:吉川美奈子
配給:ビターズ・エンド
公式サイト www.bitters.co.jp/rheingold
公式X https://twitter.com/FatihAkin_movie