『エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命』映画レビュー 映画の軽みと重みに貢献している俳優に注目

『エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命』には、がっしり心をつかまれた。細部まで目が行き届いた19世紀の世界の完璧な構築に。そして、家族の運命を描いた強いドラマ性に。イタリア映画界の巨匠マルコ・ベロッキオ監督作品。骨太と繊細さがミックスされている。

描かれているのは、19世紀に実際に起きた出来事。この事件は世界に波紋を広げていく。舞台は1858年のイタリア、ボローニャのユダヤ人居住区だ。エドガルド・モルターラは、もうじき7歳。敬虔で優しい両親のもとで、たくさんの兄弟姉妹に囲まれ、幸せな日々を送っていた。ところがある日、彼は、枢機卿の命令により連れ去らわれてしまう。

両親には、その理由に心当たりがない。納得できるわけもない。すぐに、エドガルドを連れ戻すことができると思っていた。その信念を頼りに、エドガルドを取り戻すための活動を起こしていく。だがそれは、思いもよらない結果につながっていく。

『エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命』の注目ポイントは、二つ。一つは、ミクロな個人の心の観点。少年と、両親の心のあり方の繊細な感情エッセンスだ。

もう一つは、マクロな社会的観点。18世紀に産業革命が起こって以降、世界が変化している、ちょうどその時期のイタリア教皇領を描いている。フランスでは、ナポレオン三世の時代で、日本では、安政の大獄が起きていた。世界の変化に対抗し、流れを止めたい勢力が、一方にいる。

二つの観点は、ラスト近くで思いがけないインパクトで結びつく。私には、全く予測できない結末だった。

スティーブン・スピルバーグ監督が、『エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命』の映画化権を獲得したけれど、映像化を断念した。スピルバーグが作っていたら、これほど格調と余裕がある映画にはならなかったような気がする。

『エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命』では、ローマ教皇のピウス9世役を、パオロ・ピエロボンが演じている。マルコ・ベロッキオ監督作品では『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女(2011)』、イタリア映画祭2023で上映された『夜のロケーション』に出演している俳優だ。

『エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命』では、どの俳優も素晴らしいのだが、パオロ・ピエロボンは、映画の軽みと重みの両方に大きく貢献している。この役で2023年ナストロ・ダルジェント賞助演男優賞、金鶏奨の主演男優賞受賞を果たしているのも納得だ。少なくとも、スティーブン・スピルバーグ監督作品だったら、このピウス9世を見ることはできなかっただろう。

(オライカート昌子)

エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命
4月26日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMA、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町他にてロードショー
© IBC MOVIE / KAVAC FILM / AD VITAM PRODUCTION / MATCH FACTORY PRODUCTIONS (2023)
配給: ファインフィルムズ
監督:マルコ・ベロッキオ 脚本:マルコ・ベロッキオ、スザンナ・ニッキャレッリ 
製作:ベッペ・カスケット『シチリアーノ 裏切りの美学』、パオロ・デル・ブロッコ『ドッグマン』
出演:パオロ・ピエロボン、ファウスト・ルッソ・アレジ『シチリアーノ 裏切りの美学』、バルバラ・ロンキ『甘き人生』、エネア・サラ、レオナルド・マルテーゼ『蟻の王』
2023/イタリア、フランス、ドイツ/カラー/イタリア語/134分 配給:ファインフィルムズ 原題:Rapito 映倫:G