『キュリー夫人 天才科学者の愛と情熱』映画レビュー

悪女を演じさせたら超一流の女優といえば、ロザムンド・パイク。『ゴーンガール』でゴールデングローブ賞を受賞し、その実力と、悪の魅力をじっくりと見せてくれた。

そのロザムンド・パイクが、ノーベル賞を二度受賞した天才科学者、キュリー夫人を演じる。『キュリー夫人 天才科学者の愛と情熱』は、19世紀を舞台にした天才女性の知られざる姿を描いた映画である。

普通の女優が演じたら、さぞかし、知的で高尚、格調高い映画になりそうな題材だ。だが、ロザムンド・パイクである。彼女を起用したことで、この映画に関する興味深さは、10倍ほどにふくれあがった。ただの天才科学者映画になるわけがない。

原題は放射能 原作はグラフィックノベル、主演はロザムンド・パイク。一般的なイメージなんて蹴散らしてしまう、切り込んでくるような映画なのだ。

19世紀のパリ。マリ・スクウォドフスカは、ポーランドから研究のために、女性はほとんどいないソルボンヌ大学へやってきた。研究場所すらろくに与えられない。そんな苦境の中、科学者ピエール・キュリーと出会う。

彼は、彼女に研究場所や器具の提供などの支援をしてくれたが、頑固なマリーは、彼に下心があるのではないかと警戒する。もちろん、ピエールには下心があった。彼女と共同研究をしたいという願いが。

ピエールは、たった一人で研究に向き合ってきたマリーの唯一の味方だった。やがてマリーとピエールは結婚し、研究も順調。ついにはラジウムとポロニウムという元素を発見。二人でノーベル賞を受賞することに。ただ、幸せは、長くは続かない。

ラジウムの健康被害があちこちであきらかになってきていた。ピエールも体調が思わしくない。そのせいなのか、事故で他界してしまう。

味方であり甘えられる唯一の存在を失ったマリーは、今まで怪しんでいた霊媒師を探してさまようほどになってしまう。彼女はどのように立ち直るのか。

『キュリー夫人 天才科学者の愛と情熱』でのマリーは、頑固で自分に正直。研究に対しては真摯だ。自分の向かっていく先に集中する能力は相当なもの。

だが、弱さも垣間見せる。母を失った幼い日の記憶が、病院へは入らないという決まりごとを作る。ピエールの代わりにするかのように、親友と情事を重ねる。

親友の妻が新聞にリークし、彼女への世間の目は賞賛から誹謗中傷に代わる。映画の中では、ところどころにラジウム発見の負の遺産の描写が時空を超えて挟まれる。広島・長崎、チェルノブイリ、ネバダ砂漠。そして初めての放射線治療。マリー・キュリーは賢人なのか、悪女なのか。あるいはその中間なのか。

マリーの姿は、強さと弱さをあからさまに見せてくれる。きれいごとは描かない。リアリティを描く。この潔さは、まさに女性監督ならではの退路を断った強さを感じさせる。

(オライカート昌子)

キュリー夫人 天才科学者の愛と情熱
(c)2019 STUDIOCANAL S.A.S AND AMAZON CONTENT SERVICES LLC
10月14日(金)よりkino cinéma横浜みなとみらい、kino cinéma立川髙島屋S.C.館、kino cinéma天神 他全国順次公開
監督:マルジャン・サトラピ 脚本:ジャック・ソーン 製作:ティム・ビーヴァン 原作:ローレン・レドニス
出演:ロザムンド・パイク、サム・ライリー、アナイリン・バーナード、アニャ・テイラー=ジョイ
2019年|イギリス|英語|110分|カラー|ビスタ|5.1ch|原題:RADIOACTIVE|字幕翻訳:櫻田美樹
提供:木下グループ 配給:キノフィルムズ