『ガンズ・アキンボ』映画レビュー

映画『ガンズ・アキンボ』は、私たち一人一人が、自分の世界の中で戦っている主人公であり、ヒーローであることを思い出させてくれる。『ガンズ・アキンボ』の主人公のマイルズにそう言ったなら、「んなわけないだろ」と飲みかけのビールの缶を投げつけられるだろう。無理もない。

彼の日々はこんなだ。ステキな彼女がいたのも遠い昔。プログラマーとしての仕事は身が入らない。クビすれすれ。家に帰ると、カウチビールとゲームとネット書き込みにいそしむ日々。ネットの中で中傷や超ネガティブなコメントをするときだけは、熱意を取り戻す。人が変わったように攻撃的になる。それが仇となり、命を懸けた戦いに引きずりこまれてしまう。関わってはいけない人に暴言を吐いてしまったからだ。

その人は、闇サイトで行われている殺人バトル、ズキゾムの管理人だった。マックスが朝起きると、両手に銃がボルトで固定されていた。まともに手が使えない。ズボンもはけない。トイレで用を足すのも一苦労。

彼の様子は、全てカメラにとらえられ、中継されている。そうこうしているうちに、最強のデスバトルプレイヤー、ニックスが彼を仕留めにやってくる。マイルズはスキゾムに強制参加させられていたのだ。

彼が暴力的なのはネットの世界だけだった。歩くときでも視線はいつもスマホ画面。そんな彼にリアルな世界が襲い掛かる。マックスはどのように、ヒーローとして目覚めていくのか。

マックスを演じているのは、ハリー・ポッターを10年間演じ続けてきた、ダニエル・ラドクリフだ。それが、ガンズ・アキンボのストーリーを強力にしている。

彼は少年の頃から、ドル箱シリーズの主役として、マックスのようにいつでも注目の的だった。半ば大人の世界に強制的に追い込まれてしまったようなもの。

ハリー・ポッターという名前は、マックスのボルトで固定された両手の拳銃のように、外せないように彼に取り付けられていたと思う。

ハリー・ポッター最終章から10年経って、今のダニエルはもっと自由に生きているはずだ。『ガンズ・アキンボ』では、彼のスター性が光っている。ガン・アクションに現実的なテイストをもたらしている。

演技力と存在感と、新たなアイデンティティを育て上げ、映画界の最強の戦士として日々楽しみながら戦っているのではないか。その姿を想像すると、『ガンズ・アキンボ』のマックスと二重写しになる。私たちも世界のより大きな幸福の為に戦っている。そんな気持ちになってくる。

(オライカート昌子)

ガンズ・アキンボ
(C)2019 Supernix UG (haftungsbeschrankt). All rights reserved.
2019年製作/98分/R15+/イギリス・ドイツ・ニュージーランド合作
原題:Guns Akimbo
配給:ポニーキャニオン
監督・脚本:ジェイソン・レイ・ハウデン製作: ジョー・ニューローター、フェリペ・マリーノ、トム・ハーン、出演:ダニエル・ラドクリフ、サマラ・ウィーヴィング、ネッド・デネヒー、ナターシャ・リュー・ボルディッゾ、リス・ダービーほか