作品の茶目っ気は、監督曰く
「3人の男子が近寄ってアイスクリームを食べるシーン。
象徴的に彼ら3人をフランス国旗の赤白青にしました」にもある。
なんたってオープニングとエンディングがトリコロールに見えるのも憎い。
ヴァカンスの内容はこうだ。
夏の夜、セーヌのほとりで、フェリックスはアルマに恋をする。
しかし翌日、アルマは家族とヴァカンスへ旅立ってしまう。
フェリックスは、親友のシェリフ、アプリで知り合ったエドゥアールを
道連れに、アルマを追って南フランスの田舎町ディーに乗り込んでいく。
身勝手で不器用なフェリックスと、生真面目なエドゥアール、
その仲を取り持つ気の優しいシェリフ。
サイクリング、水遊び、恋人たちのささやき。
出会いと小さなすれちがい、そして新たな恋の芽生え。
「そのとき」まで、すべては夢のようなヴァカンスだった。
映画『みんなのヴァカンス』は、
ギヨーム・ブラック監督が、『7月の物語』(17年)に続き、
フランス国立高等演劇学校の学生たちと制作した新作だ。
俳優は長篇映画に出演するのがはじめての学生たちで、
スタッフもできるだけ若い人、長編映画に参加したことが少ない人を揃えた。
製作にフランス・ドイツ共同出資のテレビ局であるアルテが加わって、
テレビ放映用に企画された作品だったが、その高いクオリティーが評価され、第70回ベルリン国際映画祭パノラマ部門に選出。
国際映画批評家連盟賞特別賞を受賞、2021年にフランスで劇場公開された。
極力説明を削ぎ落として、見る者の想像に委ねる語りが抜群に心地よい。
誰にでも一度は経験があるだろうエピソードと何気ない会話の積み重ね。
まるで、ホン・サンス風でもある。
韓国や中国の映画監督をはじめとするアーティストたちが
何故一度はフランスに渡るのかが分かる。
作中に漂うエスプリ(esprit)はフランスならではなのだろう。
きっと、フランスで恋した経験がなければ描けないものだろう。
映画『みんなのヴァカンス』を見終わって街に出ると、
そもそも長期のバカンスなんて経験のないニッポンの男たちが
なぜ恋愛下手なのかが分かって、妙に納得しながら失笑したくもなる。
徴兵制がないからニッポンの若者には愛国心がないのだ、
なぁ〜んて、全く関係のない勘ぐりもしたくなる。
映画『みんなのヴァカンス』はそんな感じを抱かせる作品だった。
ギヨーム監督のシンプルな語り口に溶け込むまでに、
俗っぽく皮肉屋なアタシにとっては、
映画が始まってからちょっぴりと時間が必要だったが、
いつの間にやらスクリーンに裸足で上がり込み、
若き役者たちと一緒に「ヴァカンス」を体現していた。
ギヨーム監督の作品にはそんな不思議な魔力があるのだ。
古くはジャン=ポール・ベルモンドから、
サラ・ベルナール、ジャンヌ・モロー、ナタリー・バイ、イザベル・ユペール、
ジュリエット・ビノシュらを輩出したフランス国立高等演劇学校の学生たちと
作り上げたという舞台裏もギヨームらしく、フランスっぽいではないか。
なかでも、監督の想像力を刺激した学生12人と
3週間のワークショップを経て撮影に臨んだという。
哲学、人種、社会階層の問題など若く活発な議論があった。
そして、それぞれカメラ、しかも仲間たちの前で、
「とくに彼らのファーストキスの体験、
あるいは人生の気まずいエピソードについて話してもらいました。
その際、『現実とフィクション』を混ぜてもよいことにしたのです。
この稽古でエリック・ナンチュアングが才能を発揮しました。
ユーモア、誠実さに溢れる話で、私たちを10分以上虜にしました。
彼が抱えているある種の孤独感や、
愛し愛されたいという強い願望を包み隠さず話したのです。
サリフ・シセは、まだ彼が内気でオタクだった15歳の時の
残酷で滑稽な思い出を語ってくれました。
彼は心ならずも親友のセックスシーンに出くわしてしまったのです」(監督)
映画は、彼らエリック・ナンチュアング、サリフ・シセ、そして
エドゥアール・シュルピスがそれぞれ主役をバトンタッチしながら
見事なアンサンブルを魅せる!
この傑作を前にして、俗っぽく皮肉屋なアタシは頭を抱えてしまった。
客寄せパンダとして演技経験も乏しいアイドルが
高校生やヤクザまがいを演じて主要な映画館を占拠する。
芸人がそんな作品の応援団としてメディアに幅を利かす。
公開3日で10億円突破だの、8週連続ベスト10入りだの。
アーティストと学生が本気本音、興収、人気なんて度外視で
作り上げた『みんなのヴァカンス』の前には軽石のように脆く感じた。
嬉しいお知らせ:ユーロスペースでは『女っ気なし』、『やさしい人』、
『7月の物語』など、ギヨーム・ブラック監督の特集上映も同時開催です!
第70回ベルリン国際映画祭
国際映画批評家連盟賞特別賞(パノラマ部門)
2020年シャンゼリゼ映画祭 批評家賞(フランス映画長編部門)
2020年カブール映画祭 グランプリ(長編部門)
『みんなのヴァカンス』
2022年8月20日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開
出演:エリック・ナンチュアング、サリフ・シセ、
エドゥアール・シュルピス、アスマ・メサウデンヌ、
アナ・ブラゴジェヴィッチ、イリナ・ブラック・ラペルーザ
監督:ギヨーム・ブラック
脚本:ギヨーム・ブラック、カトリーヌ・パイエ
撮影:アラン・ギシャウア
録音:エマニュエル・ボナ
助監督:ギレーム・アメラン
製作総指揮:トマ・アキム
映像編集:エロイーズ・ペロケ
音響編集:ヴァンサン・ヴァトゥ
ミキシング:ヴァンサン・ヴェルドゥ
美術・衣装:マリーヌ・ガリアノ
プロダクション: Geko Films
プロデューサー:グレゴワール・ドゥバイイ
共同プロダクション: ARTE France
原題:À l’abordage(直訳:搭乗、乗り込め)
2020年 / フランス / フランス語 / カラー / 100分 / 1.66 : 1 / 5.1ch / DCP
字幕翻訳:高部義之
配給:エタンチェ
(C)2020 – Geko Films – ARTE France