『サヴァイヴィング ライフ ー夢は第二の人生―』
(C)ATHANOR
『アリス』『ファウスト』などでカルト的人気を誇るチェコの映像作家・ヤン・シュヴァンクマイエルの、5年ぶり待望の新作。

実際にシュヴァンクマイエル自身が見たという夢をベースに、夢で出会った女性に魅せられた中年男が、現実と夢の世界で二重生活を送るシュールな物語。

もう「私のために存在している」と信じているくらい、シュヴァンクマイエルの大ファン。今回は、これまで全ての作品で共に製作してきた妻・エヴァ・シュヴァンクマイエロヴァーが逝去してから初となる作品なので少し心配もあった。が、若干規模は小さめながらも、個人的には十分好みに適った楽しい映画だった。

『サヴァイヴィング ライフ ー夢は第二の人生―』
(C)ATHANOR
全編にわたり、写真を切り絵のように動かしたアニメーションで構成。冒頭、シュヴァンクマイエル自身が登場し(写真アニメで)、「今回は予算がなかったので、懐かしさを感じさせる切り絵のように撮影した」などと言い訳をする。もうこのシーンの監督自身の動きからして爆笑。この調子のままストーリーへ移行し、主人公の男・ユージンの日常生活が展開する。

『サヴァイヴィング ライフ ー夢は第二の人生―』の画像
(C)ATHANOR
相変わらずのブラックユーモアが炸裂。悪趣味で、毒々しくて、ときには不快な描写も厭わない。街中を普通に歩く鶏人間(頭が鶏で身体は老女)や巨大なリンゴ、通行人を襲う大蛇、建物の間から伸びる幾つもの女性の手、額縁の中のフロイトのくるくる変わる表情など、監督が敬愛するシュルレアリスト、マックス・エルンストのコラージュを髣髴とさせる映像が展開する。基本的には切り抜いた写真のコマ撮りだが、その間に挿入される実写部分は、お得意の口の大写しや、嘔吐シーンまで堂々と見せつける。その様は、人間の本能的な行動を観客の生理的感覚に自然に導き、「我々も同類だ」と思わせる。

とにかく、アートな映像を見ているだけで楽しい。シュルレアリスムファンは見逃してはいけない!(池辺麻子)

・『『サヴァイヴィング ライフ ー夢は第二の人生―』』2010年/チェコ/カラー/35mm/108分/監督・脚本:ヤン・シュヴァンクマイエル/出演:ヴァーツラフ・ヘルシュス、クラーラ・イソヴァー、ズザナ・クロネロヴァー、エミーリア・ドシェコヴァー、ダニエラ・バケロヴァー
『サヴァイヴィング ライフ ー夢は第二の人生―』公式サイト
・晩夏、渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー