『オンリー・ゴッド』は、『ドライブ』で世界を魅了したニコラス・ウィンディング・レフン監督と主演ライアン・ゴズリング、コンビの最新作。究極の問題作だ、といっていい作品だと思う。重厚な世界観をバックに、表面では『ホステル』のトビー・フーバーの作品かと思うほどリミッターをはずした血なまぐさいシーンが次から次へと展開していくからだ。
舞台はタイ。アメリカを追われ、タイボクシングのジムを経営しつつクスリの密売にもかかわる兄弟がいる。欲望にひきづられるままに少女を殺してしまう兄。タイ警察のチャン警部は、呆然としている殺人者(兄)のもとへ被害者の父を連れてくる。
好きなようにしていいとささやき、チャン警部は、屋外で悠然とお茶を飲む。その間、娘を殺された父は怒りの噴出に突き動かされるまま、兄をなぶり殺す。弟はすぐさま兄の敵を討ちにいくが、兄の冷血な犯行を聞かされたことで、決意が鈍る。だが、それですまなかったのが、二人の母だ。
母は、アメリカからやってくるなり復讐をスタートさせる。母と、神のごとくの冷酷さと強さあわせ持つチャン警部との間で、罰と復讐の連鎖が生まれていく。
レフン監督独特の美学にのっとった静謐なシーン作りは相変わらず。アクション映画でもあるので、ストーリーはわかりやすい。だが、ギリシャ悲劇的重厚な世界観自体は、とらえにくくもある。
実際に繰り広げられる流れと、監督の描きたいことのせめぎあいで生まれたエネルギーがスクリーンから漂っている。この映画では、善と悪の戦いはない。善になりきれない人間くささと、人間の枠を飛び越えた悪との間の隙間がテーマのなのだと思う。
オンリー・ゴッドを受け入れられない人もいるだろう。一方に、この映画の滅多にない個性と監督の強い衝動により生まれたような、勇気あふれるエネルギーに賛辞を送りたい側もある。
私自身は、崇高な世界観に圧倒されてしまった方だ。残酷な醜さの中から生まれる美は格別だし、こういうものは映画でしか出会えない。
(オライカート昌子)
オンリー・ゴッド
2013年 フランス・デンマーク映画/ドラマ・アクション/90分/原題:ONLY GOD FORGIVES/監督:ニコラス・ウィンディング・レフン/出演・キャスト:ライアン・ゴズリング(ジュリアン)、クリスティン・スコット・トーマス(クリスタル)、ヴィタヤ・パンスリンガム(チャン)、ラータ・ポーガム(マイ)、ゴードン・ブラウン(ゴードン)、トム・バーク(ビリー)ほか/配給:クロックワークス、コムストック・グループ
2014年1月25日(土)、新宿バルト9他全国公開
『オンリー・ゴッド』公式サイト http://onlygod-movie.com/