『男女残酷物語/サソリ決戦』映画レビュー お洒落でポップな危険テイスト、そしてラストの衝撃 極上悦楽体験

『男女残酷物語/サソリ決戦』というタイトルを見て、どう思うだろうか。野性的? 獰猛? 混乱? 残虐? もしあなたが、スマートで、知的、整っていて都会的、なおかつワクワクドキドキの映画が好きなのよ、というタイプの人なら、選ばない映画かもしれない。

ところが、驚くなかれ、『男女残酷物語/サソリ決戦』こそ、まさしく、あなたが好きなタイプの映画そのものなのだ。危険に満ちて、お洒落でモダン。洗練されゴージャス、だが、サスペンスにドキドキさせられ、おまけに音楽は極上。ラストでは、驚きの衝撃が襲い掛かってくる。

タイトルイメージと、真逆な悦楽体験をもたらしてくれるけれど、見終わったときには、まさにタイトル通りの『男女残酷物語/サソリ決戦』だったという、納得の映画体験となる。

若くてハンサムな大富豪の男、セイヤー(フィリップ・ルロワ)の家を用事で訪ねたジャーナリストのメアリー(ダグマー・ラッサンダー)。入ったが最後、どれほどの危険が、身に迫っているのか彼女は知らない。そこには、想像もつかない体験が待っていた。

『羊たちの沈黙』? いやタイプが違う。『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』? いや野暮ったさはない。『男女残酷物語/サソリ決戦』のストーリー運びは軽快。フレームは、デザイン性が高くスタイリッシュ。独特のリズムがあり、気がつけば、その世界にどっぷり浸かってしまう。どれほど最初は奇妙に思えようとも、1960年代のポップデザインとリズムの力が強いのだ。

男自身も、趣味のための金に糸目をつけないハイテク(当時)も、最初は記号的に見えている。それが、メアリーとの関係により、本当の姿が見えてきて、戦慄させられる。

緊張感もレベルアップする。変化していくうちに、女性の側の真の姿も見えてくる。今も昔も変わらず終わらない、極秘の武器を駆使した男と女のゲームが繰り広げられる。

メアリーが、愉楽的音楽に合わせ、シースルーの布切れを身体に巻き踊るシーンには息をのむ。漂う香りは、芳醇なヴィンテージワインを味わうよう。いつまでも見ていたい気分になる。

『男女残酷物語/サソリ決戦』は日本では、未公開新発見の極上映画であり、本国イタリアでは、1969年に製作された。昨今、世界的に再発見され、話題に上るようになった本作が、製作から55年ぶりに日本で初公開となる。

マエストロ、エンニオ・モリコーネにも勝るとも劣らないステルヴィオ・チプリアーニによる名曲の数々は、強い印象で映画を彩っている。特に「メアリーのテーマ(MARY’S THEME)」は世界的に人気曲。監督・脚本 ピエロ・スキヴァザッパ。

古いものこそ斬新。それはビジュアルのみではない。女性男性の関係がある限り、ストーリーは古びない。この再発見の極上作を決して見逃さないで欲しい。

(オライカート昌子)

男女残酷物語/サソリ決戦
2024.6.7(金)より
新宿武蔵野館、渋谷ホワイトシネクイントほか全国順次公開
©1969 – Cemo Film (Italia) – Surf Film All Rights Reserved
監督・脚本:ピエロ・スキヴァザッパ 製作:ジュゼッペ・ザッカリエーロ 撮影:サンテ・アキーリ
美術:フランチェスコ・クッピーニ 衣装:エンリコ・サバティーニ 編集:カルロ・リアリイ
音楽:ステルヴィオ・チプリアーニ
出演:フィリップ・ルロワ、ダグマー・ラッサンダー、ロレンツァ・グェッリエリ、バロ・ソレリ、マリア・クマニ・クアジモド、ミレッラ・パンフィーリ
キングレコード提供 アンプラグド配給 イタリア残酷超特作
1969 年|イタリア映画|ビスタ|90 分|原題:Femina Ridens|英題:The Laughing Woman / The Frightened
Woman|映倫区分:G / S-4383