『悪の法則』映画レビュー

 © 2013 Twentieth Century Fox Film Corporation
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映画の中で描かれる悪に免疫がある人なら、リドリー・スコット監督が新たな境地に達した悪の美学を堪能できるだろう。コメディや柔なサスペンスならOK、ホラーもコメディタッチのゾンビものなら大丈夫っていうぐらいの人は、コクがありとアクが強く香り立つような悪の美学に付いていけるとは思えない。

美学というにはやり過ぎの部分も確かにある。悪に手を染めている登場人物たちは、何の抵抗も逡巡もない。人道とか善意もこれっぽっちもない。極悪は、むしろ愉快気に事を起こすのだ。悪にもレベルの層があり、極悪から小悪党、ゲス野郎までグラデーションがあるのだと、この映画を見て改めて意識させられた。

極限の怖さを感じたかったら、この映画のなにげないシーンを味わって欲しい。まさかブラッド・ピットが歩いているだけのシーンにこれほど震え上がるとは思わないだろう。

© 2013 Twentieth Century Fox Film Corporation
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そんな修羅の世界を、リドリー・スコット監督は、心を込め技術の粋を振り絞って、興趣に満ちた映像で、闇を語り尽くす。マイケル・ファスベンダー、ハビエル・バルデム、ブラッド・ピット、キャメロン・ディアス、ペネロペ・クルスの豪華キャストも、ぴったりはまった役柄で、戦慄の罠に絡め取られた人間を小粋に演じきる。

印象深いシーンも、怖いシーンも盛りだくさんの映画だが、ひとつ上げるとすると、マルキナ(キャメロン・ディアス)、とローラ(ペネロペ・クルス)のプールサイドでの会話である。方やフィアンセから高価な贈り物をもらったばかりの幸せいっぱいの純朴さ。方や「まったく変な世界よ」と言い放つ、女の冷たさ。女同士の見えない戦いは、単純な男の世界よりよっぽど底知れない。

この映画のラストは賛否両論だろうが、わたしは伏線の回収の見事さによって、さっぱりした気分で劇場を後にした。もしかしたら、私の中の悪も相当なものなのだろうか。          (オライカート昌子)

悪の法則
2013年 アメリカ映画/サスペンス・クライム/118分/原題:THE COUNSELOR/監督: リドリー・スコット/出演・キャスト:マイケル・ファスベンダー(カウンセラー)、ペネロペ・クルス(ローラ)、キャメロン・ディアス(マルキナ)、ハビエル・バルデム(ライナー)、ブラッド・ピット(ウェストリー)ほか/配給:20世紀フォックス/R15+
『悪の法則』公式サイト http://www.foxmovies.jp/akuno-housoku/