『先生!、、、好きになってもいいですか?』映画レビュー

(c)河原和音/集英社(c)2017 映画「先生!」製作委員会
 このタイトルを見てひるまない大人はそう多くないだろう。そもそも“先生”という言葉は、昔からからかいや追従として使われるし、そうでなくてもいまどき、男性教師と女子高生のプラトニック・ラブだなんて、甘ったるいキャンディを口に押し込まれるようではないか。

 と思ったわたしが見ようと決めた一番の理由は、教師を演じるのが生田斗真だからだ。『彼らが本気で編むときは、』(荻上直子監督)で好演した生田斗真だからだ。その期待は全くはずれず、それどころか、世にプラトニック・ラブがあり、それがいかに心を揺さぶるものであるかを久しぶりに思い知らされた。そこに性愛の要素がないわけはないが、それを限りなく抑制したときに生まれる、観念の歓びとでもいうべきものがこの映画には満ち溢れている。

 響(広瀬すず)は変わり者の伊藤先生(生田斗真)が好きになった。親友(森川葵)は他の男性教師が好きで、その教師は美人教師(比嘉愛未)が好きで、美人教師は伊藤先生が好きだという状況が明らかになる。孤独を好む伊藤先生の気持ちはよくわからないが、響はまずテストで90点取ろうと決意し、97点を取る。先生が笑ってくれて、響は先生がどんどん好きになる。

 舞台となるのは岡山市で、わたしの大好きな路面電車が走っている。そのせいかやや古い時代設定のようにも感じるが、これはまぎれもなく現代の物語だ。恋の普遍性が走る路面電車に象徴される。危なっかしい女子高生のきまぐれな恋ではなく、自分の心の底をきちんと見つめた女子高生の誠実な恋なのだ。

 この映画そのものが誠実である。それはむやみに意地悪な人間を登場させないことにも表われる。親友と仲良し男子(竜星涼)は響の心を知り、その恋を応援する。その態度には大人もかなわない洞察力と慎み深さがある。響と伊藤先生が世間を騒がせる行為をしても、両親は娘と教師を責めたりしない。夜の飲み屋街をさまよい、伊藤先生とめぐりあって歓ぶ響に、酔っ払いのおじさんが「がんばれよ~、女子高生~」とエールを送る。わたしはとてつもなく嬉しい。

『陽だまりの彼女』(2013)で猫と人間男子の恋を描き、『アオハライド』(2014)ですれ違う青春の恋を描いた三木孝浩監督は、今回も見事な手腕を見せる。彼はプラトニック・ラブの存在を信じているのであり、それを描く際につまらぬ照れやはったりを紛れこませない。その真心に包まれ、生田斗真と広瀬すずは、演技者としてのびやかに物語の中を生き抜くのである。

「美しいものを美しいと言いきる勇気を持とう」と教えてくれたのは、信奉する映画評論家の山田宏一さんだ。『先生!、、、好きになってもいいですか?』は、誰の胸の底にもひそむ清冽な恋心を描く、このうえなく美しい映画である。

(内海陽子)

先生!、、、好きになってもいいですか?
監督・三木孝浩
キャスト・生田斗真、広瀬すず、竜星涼、森川葵、健太郎、中村倫也、比嘉愛未、八木亜希子、他
配給:ワーナー・ブラザース映画
2017年/日本映画/113分
2017年10月28日(土)新宿ピカデリー他 全国ロードショー
公式サイト http://wwws.warnerbros.co.jp/sensei/