秋は日が短くなるにつれ、人恋しくなる季節。そして、秋はそんな心の空白を埋めてくれそうなハートフルな映画が公開される時期でもある。『ナミヤ雑貨店の奇蹟』も、そんな作品のひとつ。小説のクオリティーには定評のある東野圭吾の人気小説を映画化。日本を代表する豪華な出演陣を集め、万華鏡のような作品となった。
どこにでもある商店街の一角にナミヤ雑貨店がある。外にはいくつもの張り紙が。悩み相談の答えだ。ある小学生は、テストで100点をとるにはどうすればいいですか? という悩みを寄せていた。答えるのは、ヤミヤ雑貨店の年老いた商店主。
月日が経ったある夜、今は空き家になったナミヤ雑貨店に三人の若者が逃げ込んでくる。強盗をした彼らはなんとか一夜をやり過ごし、朝の通勤客の人ごみに紛れて逃げようと考えていた。不意に店の古ぼけたシャッターに手紙が投げ込まれる。そしてその手紙は、ジョン・レノンのなくなった次の日に書かれたものだった。その手紙は彼らの人生を大きく変えるきっかけとなる。
時空を超えるファンタジーに私は心惹かれる。現実にはあり得ないとわかっているからこそ、よくできたストーリーに出会えれば嬉しくてたまらない。まず、真っ先に思い浮かぶのは、外国映画なら『ある日どこかで』(1980)、日本映画なら『異人たちとの夏』(1988)。他にもタイムトラベル要素のある作品は数多いが、二度と会えない人々の関わりあいが感涙ポイントになることが多い。
だが『ナミヤ雑貨店の奇蹟』が泣かせてくれる理由はそこにはない。登場人物の多さがシンプルな物語を紡ぐのを邪魔している。その代わりに浮かび上がるのは、一人ひとりの登場人物の持つ夢や意思や望む心の真摯さだ。人が生きることって、これほど無残で、同時にひたむきさで美しいのだろうと思わずにいられない。ナミヤ雑貨店の店主、浪矢雄治(西田敏行)の悩み相談や、魚屋ミュージシャンの姿。魚屋ミュージシャンの父の心など。
バラバラに見えていた登場人物たちの心のありさまが、物語のラストでは時空を超えてひとつの結晶となる。複雑で語ることも多いストーリーなのに、よくつながったよねと、感動以上に驚きを感じた。
主人公の一人の矢口敦也を演じた山田涼介は、物語の最初からほとんど印象がない。あれ? 主役だよね、どうしてこの人は活躍しないのだろうとやきもきして見ていたところ、ためにためた上で最後の一番いいところで泣かせてくれた。ラストが一番美味しい。
ナミヤ雑貨店の奇蹟
監督: 廣木隆一
原作: 東野圭吾
『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(角川文庫刊)
脚本: 斉藤ひろし
主題歌; 山下達郎
『REBORN』
出演: 山田涼介 矢口敦也
村上虹郎 小林翔太
寛一郎 麻生幸平
成海璃子 皆月暁子
門脇麦 セリ
林遣都 松岡克郎
鈴木梨央 セリ(少女時代)
山下リオ 川辺映子
手塚とおる 刈谷
PANTA 皆月良和
萩原聖人 浪矢貴之
小林薫 松岡健夫
吉行和子 田代秀代
尾野真千子 田村晴美
西田敏行 浪矢雄治
配給:KADOKAWA・松竹
2017年/日本映画/129分分/ファンタジー
公式サイト http://namiya-movie.jp/