『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』映画レビュー

「ブックスマート」って、なに?

配給元ロングライドのO女史が即答してくれた。

「本で得た知識は多いけれど、ちょっと世間知らずで、

頭はいいけど、頭でっかち」らしいです。

『グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち』のセリフが頭に浮かんだ。

マット・デイモンが、飲み屋で頭脳をひけらかすハーバード学生に一喝。

「お前の意見はすべて本の受け売りだ。お前みたいな奴は50年後に

やっと自分の正体を知る。自分は意見を持たないオウムだってことを」

分析と応用学に秀でた天才肌のデイモンは

やがて誰もが驚く進路を選択して映画は終わる。

それは正解だったのか、失敗だったのか。

名匠ガス・ヴァン・サントが監督した高尚な映画だった。

さて、

『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』はど〜だ。

これっぽっちも高尚ではない。

真逆。お下品なのだ。笑

一言でいうなら、「新説 アリとキリギリス」か。

一年中遊び呆(ほう)けたキリギリスも働きアリ同様、

快適な冬を過ごせましたとさ、なのだ。

おいおい、いつの間にキリギリスは冬の蓄えをしていたんだい。

そんなことど〜でもいいじゃん。

我慢なんかしないで思い切りハジけちゃおうぜ。

一見、『ブックスマート〜』はこんな映画だ。

年末恒例、オバマ前大統領の「お気に入り映画リスト2019」にも

『ブックスマート〜』がリストアップされて話題を呼んだ。

『パラサイト 半地下の家族』や『ストーリー・オブ・マイライフ 

わたしの若草物語』など、話題作映画と共に選出されている。

はは〜ん、ご自身の娘さんたちのご機嫌とりにリストアップしたのか?

いやいや、「自分が楽しんだくらい、みんなにも楽しんでもらえると嬉しい」と絶賛のコメントもあるから本心なのだ。

現代ティーンエージャーの夢ものがたり、

人種やジェンダーの視点からも溌剌と描き切った青春映画だからか。

うがった表現、シニカルな場面もある。

主人公の女子高生ふたりは日夜ガリガリのガリ勉を貫いて

全米屈指の名門大学に合格した。

喜び爆発、見下していたクラスメートたちに報告する。

しかし、

クラスメートたちはパーティー三昧だったにもかかわらず

ひとり残らず名門校や超一流企業に合格していた。

ショックで茫然自失となるふたり。

ふたりは我慢に我慢を重ねていたセックス、ドラッグ、ロックンロールを

卒業前に謳歌しようと、パーティー会場を目指しクルマを飛ばす。

よく見かける青春の馬鹿騒ぎシーンの連続だが、

ここにうがった、シニカルな場面がポツリポツリ点在するのだ。

白人の和に溶け込むアジアの男子学生がいる。

高級服に身を包んで闊歩する女子高生がいる。

テオと名乗るネイティブ・アメリカンふう学生がいる。

美意識が高く、女性のハートを持つ自信みなぎる黒人男子がいる。

そして、ジェンダーに悩む主人公がいる。

貧富、家庭環境が見えずとも、揃って一同に進路が輝いている出だしに

出鼻をくじかれ大笑いを誘うが、終映後にはあれこれ深読みも誘うのだ。

アメリカならでは、アメリカでしか描けない、青春群像劇にちがいない。

オバマさんが注目したのも、現トランプ主導の言動と政策、

それを取り巻くアメリカの現状が映画を通して透けて見えたと

言ったら大袈裟だろうか。

映画『ブックスマート〜』を製作総指揮したのは、

第45シーズンを迎える長寿コメディ番組「サタデー・ナイト・ライブ」出身のウィル・フェレルとアダム・マッケイ。

このふたりの上に騎乗するのは、

スタイル抜群、美人女優のオリヴィア・ワイルド。

出演ではない、これがオリヴィア念願の初監督作品だ。

製作スタッフも魅力あふれる風変わりな登場人物たちにも

見る側は驚きの連続だが、この映画にはもう1つの楽しみ方がある。

見終わった時のハシャギようで、まだ若い感性を持っているか

否かを判定できるバロメーター映画でもあるようだ。

ぜひ、お試しあれ。

(武茂孝志)

『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』

8⽉21⽇(⾦)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、

新宿武蔵野館ほか、全国順次公開

2019 年/アメリカ/英語/102 分/スコープ/カラー/5.1ch/原題:BOOKSMART/⽇本語字幕:髙内朝⼦

配給:ロングライド

© 2019 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All Rights Reserved.

●スタッフ

監督

オリヴィア・ワイルド

(出演作「her/世界でひとつの彼女」、「リチャード・ジュエル」など)

脚本

エミリー・ハルパーン

サラ・ハスキンズ

スザンナ・フォーゲル

ケイティ・シルバーマン

製作

ミーガン・エリソン,p.g.a.

チェルシー・バーナード, p.g.a.

デヴィット・ディステンフェルド

ジェシカ・エルバウム, p.g.a.

ケイティー・シルバーマン

製作総指揮

ウィル・フェレル

アダム・マッケイ

ジリアン・ロングネッカー

スコット・ロバートソン

アレックス・G・スコット

撮影

ジェイソン・マコーミック

美術

ケイティ・バイロン

編集

ブレント・ホワイト, ACE

ジェイミー・グロス

⾐装デザイン

エイプリル・ネイピア

⾳楽

ダン・ジ・オートメイター

⾳楽監修

ブライアン・リング

キャスティング

アリソン・ジョーンズ, CSA

●キャスト

エイミー :ケイトリン・デヴァー(ショート・ターム)

モリー :ビーニー・フェルドスタイン(レディ・バード)

ファイン先⽣ :ジェシカ・ウィリアムズ(人生、サイコー!)

シャーメイン :リサ・クドロー(TV フレンズ)

ダグ :ウィル・フォーテ(ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅)

ブラウン校⻑: ジェイソン・サダイキス(モンスター上司)

ジジ :ビリー・ロード(スター・ウォーズ/フォースの覚醒)

ホープ :ダイアナ・シルヴァーズ(ミスター・ガラス)

ジェレッド :スカイラー・ギソンド(お!バカんす家族)

トリプル A :モリー・ゴードン(グッド・ボーイズ)

ジョージ :ノア・ガルヴィン(TV The Real O’Neals)

アラン :オースティン・クルート(TV オレンジ・イズ・ニュー・ブラック)

ライアン :ヴィクトリア・ルエスガ(本作デビュー)

テオ :エデュアルド・フランコ(アメリカを荒らす者たち)

タナー :ニコ・ヒラガ(スケート・キッチン)

ニック :メイソン・グッディング(クリスマスに降る雪は)