ジョーカー ポスター

世紀のアンチヒーロー、ジョーカーの誕生を描いた映画『ジョーカー』は底知れない魅力に満ちた作品だ。演技、描き方、美術や音楽も含め、全てが、趣のある交響曲のように圧倒的。

純粋で孤独な心優しい男、アーサーが、蜘蛛の糸に絡まるように悪に誘われていき、同時に、脱皮するかのように新しく、得体の知れない存在に目覚めていく。ヒーローズジャーニー、この場合はアンチヒーローズジャーニーでもある。

ジョーカーは、対バットマンでも有名な、DCコミックの人気悪役キャラクターだが、この映画の場合は、純粋なアメコミ映画ではなく、DCコミックの世界も直接の関連はなく、人好きのする派手なアクションもない。

かといって、一般映画の枠には収まらないスケール感がある。今まで見たことのない大型エンターテイメント映画なのだ。

80年代のゴッサムシティ。アーサーは、体の弱い母の世話を焼きながら、ピエロの派遣業で日銭を稼ぐコメディアンを志望する孤独で純粋な青年だった。

ふさわしくないときに笑いが止まらなくなるという病を抱えている上、人を喜ばせたい気持ちと裏腹に、薄気味がられることも多かった。

ある日、閉店セールの客寄せのため出張ピエロをしていたところ町で青年たちに襲われてしまう。それを知った同僚が、「護身用に持っていた方がいい」と彼にピストルを差し出す。それを受け取ったことが、彼の行く末を変える第一歩となる。

アーサーを演じるホアキン・フェニックスは、上手い俳優だとは知っていたけれど、これほどチャーミングに様々な感情を呼び起こさせる存在だとは、知らなかった。

一人の人間を演じるという縛りはしっかり押さえながら、その存在の光と影、陽気と陰気、深みと軽み、醜さと美しさ、を変幻自在に見せてくれる。圧巻だ。

(オライカート昌子)

ジョーカー
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