2012年年1月14日(土)よりオダギリ・ジョー主演、チャン・ドンゴン共演のカン・ジェギュ監督作品『マイウェイ 12,000キロの真実』が公開となります。映画の完成に先駆けて、カン・ジェギュ監督が映画のクライマックスとなる“ノルマンディー上陸作戦”を持って来日。主演のオダギリジョーさんとともに記者会見つきの特別フッテージ試写会を行いました。その模様を完全レポートします。
インするときは、戦争に送られる気持ちだった
オダギリ・ジョーさん:僕が演じる辰夫は、チャン・ドンゴンさんが演じる青年ジュンシュクの幼馴染です。二人の成長していく過程が、この映画のメインストーリーになっています。ジュンシュクは、夢も信念も何も変わらず、二時間あまりの映画の中を駆け抜けていく。一方辰夫は、自分のおかれた環境に翻弄されます。いろいろな影響を受けながら変化していきます。二人の違いがはっきり差別化されて面白いと思う。辰夫は第二次世界大戦の日本の将校です。きっとこういう人が戦地で日本をしょって戦っていたんだろうなという印象を受けました。
質問:どういうところにひかれて映像化を考えたのですか?
カン・ジェギュ監督:ドキュメンターを見て、衝撃を受け、感動し、ぜひ演出したいと思いました。こんなことが本当にありえるのかということでした。あまりにも現実とかけ離れていました。三カ国の軍服を着た波乱万丈の人生を生きた男の姿が描かれていたのですが、ドラマチックな物語がありました。さまざまな試練をくぐり抜け、どのように生き残っていったのか、その生命力に強く惹かれ、胸が熱くなるものを感じたのです。
質問:オダギリさんのどんなところにひかれ、オファーをしたのですか?
カン・ジェギュ監督:イケメンですよね。キャスティングのために日本に来て、初めてオダギリさんにおめにかかったのですが、俳優を見て、一目その魅力の虜になった俳優さんはオダギリさんが初めてでした。韓国でもよく知られ、ファンもたくさんいます。個人的にも演技が上手い方だなあ、いつか一緒にやりたいなあと以前から思っていました。
質問:監督からこのようなラブコールを受け、どのようなことが気に入って、この映画に出ることにしたのでしょうか?
オダギリ・ジョーさん:台本を読ませていただいて、第二次世界大戦のさなかにそのようなことがあったのは今まで聞いたことがないと、興味は引かれました。ただ自分の役者としてのスタンスなどから、この作品とはかかわらないでいようかなとか、いろいろ考えていました。最終的に、監督の人柄ですね。
暖かく、情熱的に誘い続けてくれたという。失礼なところは多々あったと思うのですが、あきらめずに誘い続けてくれるというのは、なかなかあることではなくて、海外の監督でもあり、その気持ちはとてもありがたく感じました。こんな自分でも作品のためになれるのであれば、がんばるしかないなという気持ちにさせてもらいました。
質問:相当大変そうな気がしたのですが、マラソンもやるし、走る、過酷撮影現場、馬に乗る、ドイツ語もでてきました。
オダギリ・ジョーさん:台本を読んだ段階でひどい(酷な)作品であるというのは感じましたね、これを韓国行って撮るのは、相当しんどいなあというのが、断るひとつの理由でもあったんです。
ただ逆に、そのときは34歳だったのですが、今後は、こんなにしんどい作品に関わることもないし、こんなに規模の大きい戦争映画は、日本ではまず作られないし、自分が今後俳優を続けていても関わる作品ではないな、それで、ではもういい勉強させてもらおうかという、あきらめに近い気持ちでした。
インするときは、行きたくなくて行きたくなくて、これから戦争におくられるような気持ちで、役作りの必要ない役だったんですよね。
質問:レッドクリフやプライベートライアンのスタッフも参加してロケも大規模だったんではないですか?
オダギリ・ジョーさん:戦車をイギリスの会社に頼んで三つ作ってもらったというんですけど、ちゃんと動くんですよ。バックもできるんですよ。製作スタッフが、動かすときに前撮りして練習したりして、楽しそうだなと思いました。
そこまで隅々まで徹底したものづくりに触れられるのも初めてでした。本当に爆発の仕方だったりして、桁が全く違っていて、今までの僕の体験と比べて。毎日生きて帰れるだろうかって思っていました。怪我しなくて奇跡だなって思いました。
質問:準備にも4時間以上かかったそうですね
オダギリ・ジョーさん:細かい爆発だったり、CGとの絡みだったり、準備にとても時間がかかって、4時間はざらにあったし、時には半日待つということもあったりしました。
僕は控え室で、ボーっと待っていればよかったのですが、スタッフの方々は、それぞれの場所で4時間も5時間も準備されているわけで、そこで僕が出て転んだりしてNGを出したりしたら最悪じゃないですか。その5,6時間の重みを感じながらその場に立つということも、なかなかいい経験をさせてもらいました。
オダギリさんの演技に鳥肌が立った
質問:実際、撮影現場でオダギリ・ジョーさんを演出されてみてどういう俳優さんだと思われたのでしょうか?
カン・ジェギュ監督:オダギリさんは、ご自分の分を撮り終えた後、一度日本に戻られて、また撮影現場に戻ってきてということがあったんですけれど、戻ってきたくありませんでしたと、オダギリさんはおっしゃっていたんです。
撮影現場では、アクションシーンを含め、過酷な場面が多かったので、スムーズに消化できるんだろうかという心配もあったんですが、現場の撮影監督が、オダギリさんの演技を見て、本当に驚いていたんですよ。
チャン・ドンゴンさんなどは、今までもアクション映画の経験も多かったのですが、オダギリさんは、大丈夫かなあと心配もあったのですが、撮影現場で演技を見て、本当に素晴らしかったので驚きました。オダギリさんの情熱にも心を打たれました。
撮影現場でオダギリさんについたあだ名は、教祖でした。スタッフたちがオダギリさんの見事な演技にモニターを見ているとわっと群がってくるんですよ。そしてオダギリさんの演技に釘付けになるのですが、わたしもオダギリさんの演技を見て、何度も鳥肌が立ちました。本当にこの役で120パーセント130パーセント表現してくださったと思います。
質問:教祖というあだ名の由来は?
カン・ジェギュ監督:宗教のように、オダギリさんに付き従う非常に情熱的なファンが現場にたくさんいたということですね。特に女性スタッフの間で。
ご参考までに付け加えますと、編集スタッフは3人女性がいて、それぞれオダギリさんの熱烈なファンで、わたしが編集で少しでもオダギリさんのシーンをカットしようとするものなら、大反対をされてしまいました。
オダギリ・ジョーさん:そういう方々のおかげで僕も仕事ができるんですよね。
質問:ノルマンディー上陸作戦は何度も映画化されていますが、上陸されるドイツ側からの視点で描かれるのは珍しいと思うのですが、映像化する上でこだわった点などはありますか?
カン・ジェギュ監督:今回はより新しいものとして描けるかだろうか、悩みました。ドイツ軍側から描かれていますが、その中にいたアジアの青年ということでその感情を表現するのに気を使いながら撮っていきました。
<ここでノルマンディー上陸作戦の映像がフッテージ上映される>
質問:いかがでしたか?
オダギリ・ジョーさん:僕もはじめて見たのですが、大変ですよね。これでも皆さんもわかっていただけたと思います。これを僕はやらされていたんですよ。この数ヶ月ほど。なんか改めてみると、震える感じがあって、これはトラウマじゃないかと、撮影時の。
迫力もあるし、規模もあるし、これをよくカットを割って、爆発のタイミングなど現場で支持をして、よくやるなと思います。監督って凄い人なんですね。現場では、どんだけ撮るんだこの人は(笑)、という嫌気が差す気持ちが正直ありました。でもこれを見せられると、本当に一生懸命ついていって、監督の求めるものを、どうにか表そうとしてよかったなと思いました。
日本人としてのあり方を貫いた
質問:チャン・ドンゴンさんとの共演はいかがでしたか?
オダギリ・ジョーさん:素晴らしい人といろいろなところで言わせてもらっているのですが、それ以上の表現がなくて。つまらない答えで申し訳ないのですが。現場のスタッフか総勢何百人かわからないのですが、その方々一人一人に、ダウンジャケットをプレゼントしていたんですよ。チャン・ドンゴンとここに書いてあるのを。
それだけでも凄いなあ、って思います。日本の現場では数十人じゃないですか。数十人にダウンジャケットをプレゼントするのと違いますからね。寒い現場だったので、みんながそれを着て撮影していたんですけど、昔高倉健さんが、時計をプレゼントするというのを聞いたことがあるんですけど、イメージとしては韓国の高倉健さん、という感じなんですかね。
質問:オダギリさんは、チャン・ドンゴンさんになにかプレゼントしたんですか?
オダギリ・ジョーさん:なんでしなきゃいけないんですか?(笑い)チャン・ドンゴンさんのはみんな欲しいですよ。でも、僕のはチャン・ドンゴンさんいらないですよ。
質問:撮影が過酷過ぎて、撮影に行くのがいやだったと言っていましたが、監督にはそのような心が折れる瞬間はありましたか?
カン・ジェギュ監督:正直申し上げますと、毎日行くのが嫌でした。12時間通常映画の撮影を行っていたのですが、毎日時間との戦いでしたし、ワンカット、このシーンをどうしたら無事故で無事撮り終えられるのか、どうしたら自分が望むものをとり終えることができるのかという熾烈な戦いの連続でした。おまけにとても寒くて、本当に現場に行くのが気が重かったです。
質問:今回マラソン選手を目指す役立ったということで谷川真理さんのところでトレーニングをなさったそうですが、その様子はいかがだったのでしょうか?
オダギリ・ジョーさん:フォームの矯正をしたり、一緒に猫ひろしさんと一緒に練習しました。猫さんは、すごいスピードで走るんです。皇居の周りを走ったり、東大の中を走ったりしました。撮影中も時間があるときは、夕方走ったり、撮影で長距離走ることはないのですが、(せっかくつけた)足の筋肉が落ちるのが嫌で、この作品で、走ることを身に着けたので、最近では、海外へ行くとその街で走るのを趣味にしています。お洒落な趣味を身につけました。
質問:今回の映画は第二次世界大戦を描かれているということで、歴史に関する考えが変わったようなところはありましたか?
オダギリ・ジョーさん:ちょっと書きにくいことかもしれませんが、第二次世界大戦に関しては、日本、中国、韓国がそれぞれ思うところがあるじゃないですか。だからこそ余計に、作品にしづらかったと思うし、日本はこの題材で映画を作ることはできないと思うんですよ。
だからこそ、韓国でこの作品を作ろうということになって、日本、中国も協力して、企画自体が挑戦的で意味があることだと思ったことも、役を引き受けるひとつの理由でもあったんです。歴史いろいろ難しいなあ、と思うのは、いろいろな側面をいろ色な方向で、いろいろな国が言っていることが変わってくるということが自然に起きてきますよね。
これは第二次世界大戦だけについての考えですが、歴史問題がクリアになれない、ならないところはあると思います。これは、韓国映画の中で描かれる、日本人ではありますけれど、僕がかかわることで、日本の観客の方々に嘘をつかないように心がけました。史実通りではないところはあるかもしれませんが。
日本人としてのあり方は、僕は貫いたつもりであるので、ストーリー上、嫌な日本人が描かれるところはあるかもしれないけれど、それはエンターテイメントの作品でありますので、約束事はしょうがないことだと理解して欲しいと思います。ただ自分は、当時あのように第二次世界大戦の時代に生きていたら、こうなっていただろうなと思って演じています。
カン・ジェギュ監督:これから全力を尽くして映画を完成させ、皆さんの期待にこたえられるような映画にしたいと思います。(会見ここまで)
オダギリさんのユーモアとカン・ジェギュ監督の真摯な姿勢が伝わってきた会見でした。『マイウェイ 12,000キロの真実』2012年年1月14日(土)より公開となります。
マイウェイ 12,000キロの真実
監督:カン・ジェギュ 出演:オダギリ・ジョー、チャン・ドンゴン
2012年年1月14日(土)より公開