『ノースマン 導かれし復讐者』映画レビュー

この映像体験は大きい。『ノースマン 導かれし復讐者』は、北欧バイキングの世界を舞台に王家の血を引く一人の青年が、奪われたものを取り戻そうとする。スケールは超大。同時に細かいところは徹底して心を込めて描かれている。

監督は、世界で高い評価を得た、”あの”『ライトハウス』のロバート・エガース。『ライトハウス』は、おもしろいおもしろくないを超えた、映像体験的な問題作だった。それを知っていれば『ノースマン』は、高い期待とともに見ずにいられない作品だ。

期待は裏切られない。称賛したいところは多すぎる。構図の端正な美しさ、タッチの力強いけれど重すぎない絶妙バランス。おどろおどろしさや、残虐性も古代を舞台にしているので普通にある。だが、押しと引きの波が丁度よいので、むしろ心地よい。

音楽や雰囲気になぜか日本映画のエッセンスがある。そこも嬉しいポイントだ。

バランスの良さの理由は、俳優陣の起用にある。主演のアムレート役のアレクサンダー・スカルスガルドは、大作出演は『ターザン』ぐらいで、知名度の高い俳優ではない。つまり、色やイメージがついていない。

父オーヴァンディル王を演じるのは、イーサン・ホーク。いい俳優だが、あくまでも普通の人を普通に演じるところに彼の良さがある。裏切られ殺される悲劇の王には遠いイメージだ。

オーヴァンデルの妻の王妃にニコール・キッドマン。彼女は王妃にぴったりな上、曲者の味もある。今回は得体の知れなさも見せつけてくれるが、普通の女の心根が顔をのぞかせてくれる。

一番びっくりなのが、復讐の対象となるフィヨルニルだ。一度は王の地位を簒奪する。ところが、次に登場するときは羊飼いになっている。彼の悪の程度は羊飼いレベルなのだ。

『ノースマン 導かれし復讐者』のキーワードは『普通の人々』だ。古代の人であろうと王族であろうとバイキングであろうと、人間としては違いがない。つまりわたしやあなたと違いがない。復讐ロマンス歴史劇であろうと、私達に近い人々が演じることでだ、ぐっと近づいてくる感覚がいい。

普通の人が織りなす物語の中で一人、異彩を放つ存在がある。司祭を演じるウィレム・デフォーだ。ライトハウスも彼の怪演がなければ成り立たなかった。『ノースマン 導かれし復讐者』では端役だが、古代では当然にあった異径が彼を通じて立ち上ってくるところが、船の錨のように重みがある、

普通の人々が、宿命と出会ったときどうするのか。華麗な映像体験だけではない、まるで自分が古代バイキングの世界に生きている没頭感がそこにある。

(オライカート昌子)

ノースマン 導かれし復讐者
2023年1月20日より金曜全国公開
2021年/アメリカ/カラー/シネマスコープ/英語・古ノルド語/原題:The Northman/137分/PG12/字幕翻訳:松浦美奈
提供・配給:パルコ ユニバーサル映画
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監督:ロバート・エガース『ライトハウス』『ウィッチ』 脚本:ロバート・エガース、ショーン『ラム/LAMB』
出演:アレクサンダー・スカルスガルド『ゴジラvsコング』『ターザン:REBORN』
ニコール・キッドマン『スキャンダル』『ある少年の告白』
クレス・バング『ザ・スクエア 思いやりの領域』
アニャ・テイラー=ジョイ『ラストナイト・イン・ソーホー』『ウィッチ』
イーサン・ホーク『ブラック・フォン』、ビョーク、ウィレム・デフォー『ラストハウス』
2021年/アメリカ/カラー/シネマスコープ/英語・古ノルド語/原題:The Northman/137分/PG12/字幕翻訳:松浦美奈
配給:パルコ ユニバーサル映画 宣伝:スキップ
公式サイト:northman-movie.jp
Twitter:@NORTHMAN_JP #ノースマン