美しくて怖い、そして切ない。そんな映画を見たかったら、『モールス』はかなりおすすめだ。スウェーデン発のヴァンパイア映画を、ほぼ同じストーリーでハリウッドリメイクしている。原題は『let me in』。「中に入らせて」という意味。映画を見た人なら、あの場面のことだな、とすぐに思いつくはずだ。
今年は子役が主役の映画が目に付くが、『モールス』では思春期が始まるちょっと手前の微妙な年代の二人が主役を張っている。大人が出てこないわけではないが、ほぼ子供の世界のみでストーリーは繰り広げられる。難しい年頃が描かれているせいもあるし、冬枯れの光景もあいまって、孤独感が胸に迫る
微妙な年頃と、ひしひしとする孤独感がなければ成立しないストーリーだ。監督の意図が幸せにもうまくいっているように思える。その絶妙なバランス感が素晴らしい。ただし、美しいのは冬の光景だし、怖いのも切ないのも、観客目線でしかないのは強調しておきたい。
登場人物たちは、ひたすら孤独にもだえるのみだ。その飢餓感を満たすためだけに、誰かにしがみつく。(文字通りそれはヴァンパイアの生きるすべでもある)子供なだけに、その孤独の満たし方は純粋で単純だ。その姿はやっぱり切ない。
切なさの正体は、成就しようがないラブストーリーというところにもある。もちろんそこも観客目線だ。当の本人たちの幸福と、見ている私たちの切なさ。映画は二重の世界を作り出す。それが監督の意図だとしたら凄い。(オライカート昌子)
モールス
8月5日(金)TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー
公式サイト http://morse-movie.com/