『沈黙のレジスタンス~ユダヤ孤児を救った芸術家~』音と動きのスリルに注目

ナチスに抵抗したフランスレジスタンスと、近代パントマイムの第一人者、マルセル・マルソー。この組み合わせは、異質な気がする。だが、事実はフィクションの上をいき、知られざる世界へと扉を開く。

『沈黙のレジスタンス~ユダヤ孤児を救った芸術家~』は、実際に起きた出来事を、当事者の取材を通して、映画作品にしている。沈黙の詩人と言われたマルセル・マルソーが、いかに戦争中に生き、どのように活動を行ったのか。

戦争と芸術が混ざりあって生まれる不思議な感触がある。命の危険にさらされたユダヤ人孤児を逃がすというドラマチックでサスペンスフルな世界を描きつつ、透明感が浮き上がる独特の世界を提示している。

透明感の理由の一つは、マルセルのパントマイムだ。演じるのは、私のお気に入りの俳優、ジェシー・アイゼンバーグ。ジェシーの母親は実際プロの道化師だったということ。彼の身のこなしの自然な貫禄は、小さいころからの動きへの興味と繊細な目によって養われたものかもしれない。

ジェシー・アイゼンバーグの純粋な動きの傑出度は、『嗤う分身(2013)』で驚かされた。その彼のパントマイムがどれほどのものかは、『沈黙のレジスタンス~ユダヤ孤児を救った芸術家~』で十分に証明されたと思う。マルセル・マルソーという伝説のパントマイマーを演じるとしたら、ジェシー以上の俳優はいないはずだ。日本舞踊の達人の動きのように無駄なく優美でスマートだ。

その理由もあり、『沈黙のレジスタンス~ユダヤ孤児を救った芸術家~』は、よくあるユダヤ人迫害ものとは少し違う後味がある。音と動きのスリルが、強く意識させられる作品になっていて、鮮明な記憶を残す。優しさや静けさ、愛や思いやりといった、あたたかな気持ちも残してくれる。

一方の敵役とも言えるナチスの将校は、クラウス・バルビー。『100日間のシンプルライフ』では、ほのぼのとした印象だった、マティアス・シュバイクホファーが演じている。

クラウス・バルビーは、伝説の『リヨンの虐殺者』。若き親衛隊の将校だ。『沈黙のレジスタンス~ユダヤ孤児を救った芸術家~』では、残酷なうえ美しく、さらに人間味もかすかに感じさせて、映画に厚みを与えている。

ところで、クラウス・バルビーが拷問や殺害を行うのは、プールなのだが、その光景には、かすかに記憶をくすぐるものがある。最近も少し話題になったエプスタイン事件関連で、関係者が家に飾っていたと言われるプールに幼い子どもたちが並んでいる絵画があり、それに似ている光景なのだ。描かれた子供たちは、虐待を受けていたとも言われている。ジョナタン・ヤクボウィッツ監督は意識してプールを使ったのかどうか。

過去は現在と二重写しとなる。今、何を知り、どう行動すべきなのか。過去は問いを突き付ける。


(オライカート昌子)

沈黙のレジスタンス~ユダヤ孤児を救った芸術家~
©2019 Resistance Pictures Limited.
8月27日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
監督・脚本・製作ジョナタン・ヤクボウィッツ
出演 ジェシー・アイゼンバーグ、クレマンス・ポエジー、マティアス・シュヴァイクホファー、フェリックス・モアティ、ゲーザ・ルーリグ、カール・マルコヴィクス、ヴィカ・ケレケシュ、ベラ・ラムジー、エド・ハリス、エドガー・ラミレス
2020年/アメリカ・イギリス・ドイツ/英語・ドイツ語/120分/カラー/スコープ/5.1ch
原題RESISTANCE
レーティング G
提供 ⽊下グループ 配給キノフィルムズ