
海辺の村に警察署長として赴任したヨンナム(ペ・ドゥナ)に、人々は好奇心をあらわにする。無遠慮な視線に耐え、与えられた住居に戻った彼女はペットボトルに入れた酒を大量に飲んで眠りにつく。何が彼女の心を占めているのか、酒を飲んで荒れるでもない様子がかえってその苦しみを際立たせる。
やがてヨンナムは少女ドヒ(キム・セロン)が粗暴な養い親に虐待されているのを知る。怒りに燃え、ドヒを住まいに引き取ったヨンナムに、ドヒは小動物のように警戒しながらも徐々になつくようになる。だが虐待されたせいなのかどうかドヒの心にはいくぶん歪みがあり、ただの同情だけで彼女を救うことができないのは明らかだ。そこへ一人の女性が現れ、彼女がヨンナムの恋人だと知れる。彼女は同性との恋をとがめられ、この地に左遷させられたのだ。
物語上のクライマックスはこの後で、養い親と警察の悪意と残忍性を見抜いたドヒが「あること」を仕掛けるところからだ。少女の中に潜んでいた魔物が生き生きと働き出す様子は、おそらく気味が悪いと思うより先に観客の心を捉え、共犯者にするだろう。署長を救出するという目的はあくまでもきっかけにすぎない。少女はたまりにたまった鬱憤をここで一気に晴らすのである。
「一緒に来る?」と問いかける署長と歓喜する少女の姿は一応のハッピーエンドだが、二人の先にあるのは希望だけではない。多くの偏見と邪推が待ち受けているだろう。そして消え去ったとは思えない少女の魔物がいつどんな形で始動するかもわからない。それでも二人はここから一歩踏み出す。同じ髪型になった二人は姉と妹のように寄り添って生きて行くのだろう、勇気を携えて。
(内海陽子)
私の少女
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