深刻な話に笑いをふくませてテンポよく描く映画は、深刻な話をそのまま描く映画より優れているのは当たり前だが、喜劇に対する世の中の評価は依然として低い。『WOOD JOB!~神去なあなあ日常~』は、大人への道に戸惑う男子が林業の研修に活路を見出す物語。『スウィング・ガールズ』や『ロボジー』の矢口史靖監督の緩急自在の演出にのせられ、今風男子(染谷将太)の成長ぶりに心が満たされる。彼がまただらけた日常に戻るかと思いきや、建築現場の材木の匂いに決意を新たにするラストシークエンスは、観客の願いを読んだかのようにチャーミング。『アメリカン・ハッスル』の見事な逆転劇にも心が沸き立ち、人生、いかなるときにも安易な憂鬱や絶望にくみしてはならないと思う。
日本映画
1位 WOOD JOB!~神去なあなあ日常~
今年のいち押し。三浦しをんの繊細な原作もいいが、矢口史靖の大胆な脚色によって加わった軽やかなおとぼけとスピード感が、卑小な憂鬱を吹き飛ばす。
2位 紙の月
地面から少し浮いたように物語の中を疾走する宮沢りえと、彼女を追い詰めながら気圧される小林聡美の対決のゆくえは、ひょっとしたら“死”だろうか。
3位 白ゆき姫殺人事件
人が人を殺める動機は古今東西単純なものなのに、ついミステリータッチに騙される。人の悪い作劇に翻弄されるのもまた映画の楽しみ方のひとつである。
4位 六月燈の三姉妹
なんといっても津田寛治が風呂場でうなるキャンディーズの「暑中お見舞い申し上げます~」に尽きる。男のはにかみと恋女房への未練がなんとも愛らしい。
5位 まほろ駅前狂騒曲
すっかり馴染みになった多田(瑛太)と行天(松田龍平)に会える嬉しさよ。まほろという町でのトラブルの数々は、済んでしまえばめでたいことばかりだ。
外国映画
1位 アメリカン・ハッスル
胸元も露わなエイミー・アダムスの挙動に目が釘づけ。DVDでチェックしても、彼女のイギリス訛りとアメリカ訛りの違いが判らないことに小さく苛立つ。
2位 猿の惑星:新世紀 ライジング
アンディ・サーキスによって命を吹き込まれた魂は“なぜ戦争を避けられないか”を悲しみとともに認知して立ち上がる。疑惑、嫉妬、欲望、憎悪、復讐心。
人間も猿も知的能力が高まるほどに負の力も増大するさまが艶やかに描かれる。
3位 ブルージャスミン
一度味わった贅沢を忘れられない女の末路をここまで“魅せる”ものに仕立てたケイト・ブランシェットの、底知れない技量に陶酔しながら背筋が寒くなる。
4位 早熟のアイオワ
ジェニファー・ローレンスとクロエ・グレース・モレッツが姉妹に扮する家族劇。母親から売春を迫られたジェニファーの抵抗ぶりに腹を殴られるような痛みを覚えつつも、彼女のスタイルが既に完成されていることに感銘を受ける。
5位 ウォルト・ディズニーの約束
年齢相応にしわを刻んだ渋面が実にエレガントなエマ・トンプソンが「メリー・ポピンズ」の原作者P・L・トラヴァースに扮する愛のドラマ。ディズニー役トム・ハンクスとの緊張感満点の駆け引きは、泣かせどころでも笑いを誘う。
(選/文 (内海陽子))