『楓』映画レビュー 秘密の露見と真実の発見

戦後から作られてきたヒット曲原作(原案)映画の最新版が『楓』だ。『楓』の原案は、国民的バンド・スピッツの「楓(かえで)」。1998 年にリリースされた 8th アルバム『フェイクファー』の収録曲で、同年にアルバムからシングルカットされ、その後数多くのアーティストにカバーされながら、27年経った今も愛され続ける大切な人との別れや想い出を包み込んだ名曲だ。

映画『楓』の別の顔は、「なりかわり映画」。あるいは、「だまし映画」でもある。なりかわり映画とは、影武者のように誰かになり替わる映画。だまし映画は、『あなたが寝てる間に』のように、心ならずも人をだましてしまう映画だ。

映画『楓』は、人をひきつける「なりかわりとだまし」を使いつつ、核となる精神は、人を思う気持ち。相手を思いやる、おもんばかるゆえにラブストーリーとして成り立っている。

最初のうちはもたつく。なりかわりのおもしろさやドキドキ感も関係性の描写も、もっとあってもいい。その足りなさを補ってあまりある要素も十分にある。

秘密の露見と真実の発見につながる後半は、ゆったりとしたリズムはキープしたまま、爆発的な流れとなる。露見と発見は、二重になっていて、期待と興奮は二度襲う。

一番感動を誘うのは、ひとつの言葉。そのフレーズは、映画全体をひとつにまとめ、映画の余韻を深める。忘れがたい映画にするには、たった一つのセリフだけでいいのかもしれない。

スピッツの曲の「楓(かえで)」をもう一度聞くと、映画『楓』の登場人物の心情がより深く味わえたような気がする。ヒット曲原案映画のジャンルは、一粒で二度おいしいのかもしれない。

大切な人を失う運命に向き合う主人公を演じるのは、福士蒼汰と福原遥。監督は多様な恋愛映画を手がけてきた行定勲。『世界の中心で、愛をさけぶ』に続く令和を代表するラブストーリーに挑む。脚本は髙橋泉、

(オライカート昌子)


(c)2025 映画『楓』製作委員会
12月19日(金)全国公開
配給:東映/アスミック・エース
出演:福士蒼汰、福原遥、宮沢氷魚、石井杏奈、宮近海斗、大塚寧々、加藤雅也
監督:行定勲
脚本:髙橋泉
原案・主題歌:スピッツ「楓」(Polydor Records)
日本/カラー/120分/シネスコ/Dolby5.1c公式サイト:https://kaede-movie.asmik-ace.co.jp公式X/公式Instagram/公式TikTok:@kaede_movie1219