『F1®/エフワン』映画レビュー ブラッド・ピットの代表作登場

ブラッド・ピットにはどんな代表作があるのだろうか。素晴らしい出演作品は数多くあるけれど、「これが一番」だと決定づける作品は思い浮かばない。ブラッド・ピットの最大ヒット作は『ワールド・ウォーZ(13)』だ。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド(19)』ではアカデミー助演男優賞を受賞している。とはいえ、どちらもブラッド・ピットの存在より作品全体のイメージが強く印象に残る。

初期の出世作を除けば、作品全体の質やキャストアンサンブルを重視して作品に参加しているような気がする。彼が出演するのは自身のスター性で作品を華やかにする理由もあるだろう。カメオ出演も多い。映画プロデューサーとしての立場も感じられる。

ところがここにきて、『F1®/エフワン』が公開。これぞ「ブラッド・ピット」でなくてはならない映画だ。ブラッド・ピット以外の人が演じたら別の映画になってしまう。彼の熟成を高らかに突きつける。文字通り代表作だ。

『F1(R) エフワン』で演じているのはソニー・ヘイズ。彼は80年代、アイルトン・セナやアラン・プロストなどの人気ドライバーとともにF1サーキットで戦っていた。夢を絶たれた彼は、アンダードッグそのままの人生を送っていた。そこに、以前のチームメイト、ルーベン(ハビエル・バルデム)が登場。ルーベンは、低迷するF1®/エフワンチーム「エイペックス」の代表。思いがけない申し出だったが、F1®/エフワンサーキットに戻ることを決断した。

低迷にあえいでいたチームは彼の参加でどうなったか。バラバラだったチームは変化し、勝利のために無謀な戦略にも挑む。本物のサーキットを実際に運転する臨場感が作品の醍醐味だ。

ソニーが持つゆったりとした野性味は、ブラッド・ピットの今まで通りの持ち味だ。そこに老成が加わり、味わい深い人物が立ち上がってくる。富や名声や勝利の欲に振り回されるのは最小限でいい。好きなことにひたすら打ち込む喜びは、ソニーだけでなくブラッド・ピット自身を強調する。

(オライカート昌子)

F1®/エフワン
6月27日(金)全国公開
配給:ワーナー・ブラザース映画
© 2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.