『新世紀ロマンティクス』映画レビュー  ジャ・ジャンクー監督が紡ぐ変わりゆく世界と奇跡

『長江哀歌』、『罪の手ざわり』のジャ・ジャンクー監督が、『新世紀ロマンティクス』で変わりゆく世界をドキュメンタリーとしてそのまま切り取り、フィクションを交えて物語化した。そこにあるのは、奇跡的な巡り合わせだ。

滅多にない骨組みの映画は、かみ砕きにくいこともある。映画には練りに練ったストーリーや、わかりやすい人間ドラマが必要だと思っていたら、『新世紀ロマンティクス』は最初はとっつきにくく感じるだろう。

目を凝らして見て欲しい。変わってしまった人々と光景と時間が、そこに息づいているのを。描かれているのは中国だけれど、自分の中にもある記憶と憧憬が立ち上がってくる。スクリーンと自分の過去イメージがゆっくりとクロスし、極上カクテルのように混ぜ合わされ流し込まれるような気分だ。

『新世紀ロマンティクス』のスタートは、2001年。場所は中国北部の街、大同(ダートン)。主人公のチャオとビンは青春を謳歌している。町も炭鉱産業も傾き、ひなびている。にもかかわらず人々の目は透明感があって輝いているのが印象的だ。

映画はチャオとビンのその後を追う。時は2006年。三峡ダム建設により水底に沈む運命にある2000年の歴史を持つ古都、長江・奉節(フォンジエ)の光景。再会するチャオとビン。二人はコロナ下の2022年の大同でも再び出会うことができるのだろうか。

『新世紀ロマンティクス』が奇跡的で信じがたいと思うのは、ジャ・ジャンクー監督が過去に撮っていた映像の断片が、つなぎ合わされ、一つの物語として提示されたこと。見ることはできるけれど語られない人々や町と出会い。そこには見る側が存在することで初めて完成する、いわゆる映画の存在意義そのままだ。

映画の実感が自分の中で堆積し、新鮮な記憶として残っていく格別な感覚がある。この奇跡の映画はあなたの心に何を残すのだろう。

(オライカート昌子)

© 2024 X stream Pictures All rights reserved
Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、新宿武蔵野館ほか絶賛上映中!

監督:ジャ・ジャンクー
脚本:ジャ・ジャンクー、ワン・ジアファン
撮影:ユー・リクウァイ、エリック・ゴーティエ
音楽:リン・チャン
出演:チャオ・タオ、リー・チュウビン
パン・ジアンリン、ラン・チョウ、チョウ・ヨウ、レン・クー、マオ・タオ
2024 /中国/中国語/1:1.85/111分/G
配給:ビターズ・エンド
公式ホームページ
www.bitters.co.jp/romantics/
ビターズ・エンド公式X
https://x.com/Jia_Zhangke