『JOIKA 美と狂気のバレリーナ』映画レビュー アスリートの覚悟に限界はない

ここまでやるのか。そんな驚きを見せつけるのが『JOIKA 美と狂気のバレリーナ』だ。主人公ジョイ(タリア・ライダー)の夢は、ボリショイバレエで踊ること。ジョイは、可能性の上限を上げようと全力を尽くす。

バレリーナの厳しさは、普通の人の想像を遥かに超える。トゥシューズで踊ったり、ジャンプするのは、身体の自然を捻じ曲げている。ハイヒールで歩いたり、仕事をするだけでも痛みはあるのに。

『JOIKA 美と狂気のバレリーナ』では、美のための代償を”狂気”に例えている。言うなれば、そこまでやらなければトップに立つことはおろか、スタートラインに立つこともできない。

『JOIKA 美と狂気のバレリーナ』は、実在のバレリーナ、ジョイ・ウーマックの物語を実話映画化。15歳のアメリカ人バレリーナ、ジョイ・ウーマックの夢はボリショイ・バレエ団のプリマ・バレリーナになること。ボリショイアカデミーの練習生としてスカウトを受け単身ロシアに渡った。つまりジョイは、スタートラインに立った。

待っていたのは伝説的な教師タチアナ・ヴォルコワ(ダイアン・クルーガー)のもとの厳しいレッスン。ボリショイバレエ団に入団するには、志望者5000人の中から選ばれなくてはならない。普通のレッスンでは振り落とされるだけ。彼女の食い下がり方は常識を超える。

バレエダンサーは、美のアスリートだ。一流アスリートの覚悟には限界がなく、枠を突破することだけを目標にしている。『JOIKA 美と狂気のバレリーナ』では、どうしても許せないことが起き、夢をあきらめるシーンもある。立ち直ることはできるのか。

ジョイを演じるタリア・ライダーは本物の魅力をたっぷり見せてくれる。教師を演じるダイアン・クルーガーも英国ロイヤル・バレエ団でダンサーを目指していたという。そういえば、同じようにボリショイバレエ団への入団を目指していた少女を描いた『ポリーナ、私を踊る』では、「ショコラ」のジュリエット・ビノシュが、コンテンポラリーダンスの振付家役で素晴らしいダンスを見せてくれた。かのマッツ・ミケルセンも、バレエダンサー出身。『アナザーラウンド』で華麗なダンスを披露。アスリートは、どの世界でもアスリート。エンターテインメントに尽くしている姿に熱くなる。

現役のバレエダンサーが出演しているところにも注目。『ホワイト・クロウ 伝説のダンサー』でルドルフ・ヌレエフを演じたダンサーのオレグ・イヴェンコは、ジョイのパートナー役。世界的バレリーナのナタリア・オシポワも本人役で出演し華を添えている。

(オライカート昌子)

美と狂気のバレリーナ
© Joika NZ Limited / Madants Sp. z o.o. 2023 ALL RIGHTS RESERVED.
4月 25日(金)TOHOシネマズ シャンテ他全国公開
配給:ショウゲート 
出演:タリア・ライダー ダイアン・クルーガー オレグ・イヴェンコ 監督・脚本:ジェームス・ネイピア・ロバートソン
2023/イギリス・ニュージーランド/111分/カラー/スコープ/5.1ch/原題:JOIKA/日本語字幕:古田由紀子/字幕監修:森菜穂美