『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』映画レビュー 怒りへの新しい対処法とは

怒りは、そのままにしておいてはいけない。いつかふくれあがり、自分や他人を攻撃してしまう。だから、みんなが怒りを対処する方法を考える。『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』の場合は「モラルある詐欺」だ。

『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』の主人公熊沢二郎は税務署員。良識を持って市民からは税金を受け取る。相手が巨額脱税王だったらどうだろう。熊沢は手を出したくても出せない。その怒りは彼の心の中に岩のような塊になっている。その上彼自身がチンケな詐欺にも出会ってしまう。その怒りのはけ口はどこへ向かうのか。

『カメラを止めるな!』で日本のみならず、世界に映画のおもしろさを伝えた上田慎一郎監督が、『カメラを止めるな!』より前から始動していた企画が、『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』だ。

詐欺、ケイパー、騙しは映画ジャンルの中で人気だ。気持ちよく騙されたいというのは、人間共通の隠された願望なのだろうか。映画の中に限ったことだとは思うけれど。『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』の騙し方は優秀だ。騙される快感を嫌というほど強く味わうことができる。

怒りの対処法を学べて、気持ちよく騙される。それだけでもお釣りが来そうだ。さらに観客は、熊沢を演じる内野聖陽の濃厚な演技を見ることができる。イケメン詐欺師氷室(岡田将生)をはじめとした騙し軍団(アングリースクワッド)のバラエティに富んだ面々も愉快さ満点。

怒りの対処法に話を戻すけれど、一般人が「モラルある詐欺」方式を使うことはできない。そもそも詐欺は犯罪だ。だったらどうすればいいのか。そのヒントは、『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』の熊沢の変化に鍵があると思う。前半と後半の彼は違う。

前半の熊沢は、真面目な公務員。精一杯仕事をし、家族サービスも欠かさない。心に溜めた怒りは意識しないようにしてきた。生活のため家族のために。それで十分だと思ってきた。それが十分でなかったことに自分でも気づいていなかった。

後半、「モラルある詐欺」ワールドに足を踏み込んでから彼は変化していく。新たな仲間、新たな世界。そこに「モラルある詐欺」以上の怒りへの対処法があるような気がする。誰にでも使える怒りの解消法だ。楽しさがあれば、鬱々としたものは吹き飛んでしまう。その楽しさが伝わってくるところが『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』のポイントだ。

(オライカート昌子)

©2024アングリースクワッド製作委員会
11月22日(金)新宿ピカデリーほか全国公開
配給:NAKACHIKA PICTURES  JR西日本コミュニケーションズ

監督:上田慎一郎 脚本:上田慎一郎 岩下悠子
キャスト:
内野聖陽
岡田将生
川栄李奈 森川葵 後藤剛範 上川周作 鈴木聖奈 / 真矢ミキ
皆川猿時 神野三鈴 吹越満 / 小澤征悦
原作:「Squad38 (38사기동대)」邦題「元カレは天才詐欺師 〜38師機動隊〜」
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