Photograph by Merrick Morton(c)2013 Gravier Productions, Inc.
Photograph by Merrick Morton(c)2013 Gravier Productions, Inc.
 電車の中で独り言を繰り返している女性に遭遇してもただの傍観者でいられるが、飛行機のファーストクラスの隣に自分勝手な話をまくし立てる女性が座ったらさぞ迷惑なことだろう。高級服を身にまとったエレガントなジャスミン(ケイト・ブランシェット)だが、その言動はどこかおかしい。この映画は、冒頭にヒロインへの客観的視線を配して観客の共感を誘う。こういう、ヒロインに感情移入しにくい設定というのは作家の意欲の表れでもある。

 ジャスミンの本名はジャネット。ニューヨークでの贅沢三昧な暮らしが終わり、サンフランシスコで庶民的に暮らす妹ジンジャー(サリー・ホーキンス)のもとに転がり込んだのに、自分の半生を恥じるどころか、不満たらたらで要求は身のほど知らずに高い。しぶしぶ歯科医の受付の仕事に就くが、妹の恋人や、彼が紹介する男性には嫌悪をあらわにする。それというのも、彼女の心には過去の栄光を取り戻そうとする野心が渦巻いているからで、回想シーンで描かれる過去はまばゆいばかりで、現在との対比は滑稽と残酷の極みである。

 やがて、あるパーティでジャスミンはエリート外交官のドワイト(ピーター・サースガード)と知り合い交際を始める。残り少ない高級服を上手にアレンジして気品を醸し、かつて鍛え上げたセンスのいい身ごなしで彼の心をとらえる様子は、うまくいけば彼女は新たな幸運をつかむのではないかと思わせる。しかし自分の職業はインテリア・デザイナーで、心臓発作で死亡した夫は外科医だった……という嘘で固めた経歴がばれるのは時間の問題だった。

 どうにも嫌みな女なのだが、そういう役こそベテラン女優の腕の見せどころでもある。ケイト・ブランシェットの、出し惜しみせず、しかも露悪的にならない感情表現には、女優であることの歓びがあふれていて、そのことにこそ感動する。無理な相談だろうが、ジャスミンになんとかもう一花咲かせてやれないものだろうかという気持ちが高まってくる。

 しかしウディ・アレン監督はひとが悪く、わたしの願いを聞き入れはしない。この映画のポイントは観客をあくまでも冷静な立場にとどまらせる点にあるからだろう。そのためには過去と現在の場面転換がはっきりわかることが肝腎であり、それが非常にスマートなので快く映画に揺さぶられる。場面転換の境目が気取っていて、こちらの頭が悪いのかと不安になる映画が少なくないが、すぐれた映画は観客に恥をかかせないものなのだ。

 ぽつんとベンチに座るジャスミンの独り言に耳を貸す者は誰もいない。もし彼女が電車に乗っていたら、かつて好奇の視線を向けた女性のように見えるだろうか。その姿が自分と無縁とは言い切れないと思うと少し背筋が寒くなる。
                           (内海陽子)

ブルージャスミン
2014年5月10日(土)、新宿ピカデリー、Bunkamuraル・シネマ、シネスイッチ銀座ほか全国公開
配給:ロングライド

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