今回彼が演じるのは、変質者でも悪人でも復讐者でもない。長年連れ添った妻(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)が病み、彼女に去られることを怖れているただの頑固老人である。それでもテレンス・スタンプだから、いくら無骨な老人を装っても、ちらりと粋な影がのぞく。顔がクローズアップされれば、しわに囲まれていっそう魅力的になった青い瞳がきらめく。こういう男に愛される女は本当に幸せ者である。
明るい気性のマリオン(レッドグレイヴ)は、病んだいまも高齢者の合唱団に参加して笑顔を振りまいている。夫のアーサー(スタンプ)は妻の身を案じ、合唱団をリードする若い音楽教師エリザベス(ジェマ・アータートン)に冷淡な顔をみせるが、エリザベスは意に介さない。それどころか、マリオンのソロ歌唱「トルゥー・カラーズ」の効果もあり、この合唱団は国際合唱コンクールの予選を通過し、本選に臨むことになる。しかしマリオンは本選出場を待たずに死去し、息子との関係を修復できないまま、アーサーは悲嘆にくれる。
日本語タイトルとヴィジュアルで想像がつくだろうが、亡きマリオンに代わり、彼女のためにソロで歌うアーサーはまことに美しい。スーパースターだ。その姿を見て歓喜する家族やエリザベスや団員、すべての登場人物の幸せをわたしは共有する。すてきな映画をありがとう。 (内海陽子)
アンコール!!
6月28日(金)TOHOシネマズ シャンテ 7月5日(金)全国ロードショー
公式サイト http://encore.asmik-ace.co.jp/