(c)吉本興業株式会社
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映画には二種類ある。一言でいえば、理解できる映画とできない映画である。本作は完全に後者だ。人間には ‘‘わかった‘‘ということで安心したい心理がどこかにある。しかし、実は ‘‘わからない‘‘ところに本当の面白さがあるはずだ。そんなことを本作『R100』は教えてくれるのである。

さて、『よくわからないけど面白い』あるいは『突き抜けすぎて理解できなかった』という表現を『シュールで面白かった』とか逆に『シュールすぎて理解できなかった』というが、本作の監督である松本人志はお笑い界に『シュール』を持ち込んだ第一人者である。

そんな彼が映画監督業を始め、2007年に第一弾として『大日本人』を世に出した時の反応はまさに賛否両論だった。そして、第二弾の『しんぼる』から松本作品が持つ極めてシュールな世界観が原因となり賛否両論というよりも膨大なアンチと少数の信者という構図が出来上がってしまい、その後ネットを中心にして公開前から酷評されるという歪んだ状況まで出てきてしまった。この現象の背景には『理解できなかったらどうしよう』という人間の根底に持っている不安があるのだ。

しかし、くどいようだが理解できないからこそ面白い。それが『R100』である。

ところで、松本監督の過去作を振り返ってみると『大日本人』『しんぼる』『さや侍』と3作あり、その中では『想像もつかない“何か”が起こる…』というキャッチコピーの元2009年秋に公開された『しんぼる』に本作のキャッチコピーはかなり似ている。

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では、本作のキャッチコピーはなんだろうか?ポスターを観たところ『父はM』とあり「ようこそ、未体験の世界へ。」という文字も入っている。このコピーから想像するに想定外の“何か”が起こると予想できるので『しんぼる』に近いという見方ができるわけだ。

さて、そんな本作はいったいどんなストーリーなのか?簡潔に説明すると、基本設定は都内有名家具店に勤務している片山貴文(大森南朋)が謎のクラブ『ボンテージ』でのSMプレイの申し込みをしたことがきっかけで女王様たちに私生活をボロボロにされるという物語だ。‘‘基本設定‘‘と書いたのはなぜかといえば、実は本作は二重構造になっていてこの設定の他にあと1つの大きな設定があるのだ。しかし、それをここに書いてしまうと劇場でのお楽しみを奪ってしまうことになるので、それは控えておこう。

いずれにしても物語が二重構造あるいは三重構造になっている、という点はいかにも松本監督らしいシュールなやり方で、これが彼のサービス精神なのだろう。

しかしながら、この複雑な構造を読み解くことはおそらく不可能だ。やはり映画を観たあとは、どうしてもその作品が持っている意味を理解して、作品の定義付けを勝手にしてしまいたくなるものだが本作の見方は『モナリザ』や『ピカソ』の絵を眺めるように観るのが正解で、ただその世界観に酔い、楽しめれば良いとボクは思っている。

もちろん、映画の見方に正解も不正解もないのだから、定義付けをしたい方は大いにするべきだろう。

ところで、本作のMVPを上げるとすれば、それはやはり女王様たちに襲われることになる片山貴文を演じる大森南朋の身体を張った演技である。

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たとえば、冨永愛演じる女王様に回し蹴りを食らうシーンや階段から突き落とされるシーンなどがあるが、これはもう文字通りの意味で身体を張っている。さらにいえば彼がいじめられている時のリアクションがいかにもその筋の人といった感じで見事なのだ。まさか、役作りのためにSMクラブに通ったということはないだろうが、その説を疑ってもイイくらいの名演技である。

また、冨永愛の美脚から出てくる回し蹴りを大スクリーンで鑑賞することは貴重な‘‘非日常体験‘‘だといえる。映画というのはいかに実生活から離れて、劇場で非日常体験をすることができるのか?その一点だけにかかっていると思うので、非日常体験だらけの本作をボクは猛プッシュしたい。

なお、物語の後半で『ある言葉』が繰り返し出てくる。その後、松本監督本人が出演するシーンで、『○○○○という言葉が今の日本のリアリティーだ!』というセリフが出てくるのだが、ボクはこのシーンがもっとも印象に残った。

もちろん、この言葉の真意は監督にしかわからないが、ボクはこの言葉は『同調圧力』のことを意味していると勝手に解釈している。

同調圧力とは大ざっぱにいえば多数派による暴力的な圧力のことである。たとえば、職場では多数派の意見に同調しない者は居場所を失うし、ネット上でも少数派の意見は暇つぶしの標的にされ炎上という形で潰されてしまう。

そもそも民主主義というのは多数派による同調圧力が背景にあるわけで、その構図は映画の評価についてもまったく同じである。つまり、名誉ある賞を取り、多数派が評価すればナゼか傑作ということになる。逆にいえば、その多数派の評価に同調しないと面倒なことに『映画がわかっていない人』というレッテルをナゼか貼られ、その監督の信者ということになってしまうのだ。

このような同調圧力的な評価を拒否するという意味で、松本監督はその言葉を何回も意図的に言わせたのだろう。それがどういう言葉だったのか?については劇場でチェックしてもらいたい。 (小野義道)

R100
2013年 日本映画/監督:松本人志/出演(キャスト):大森南朋、大地真央、寺島しのぶ、片桐はいり、冨永愛、佐藤江梨子、渡辺直美、前田吟、YOU、西本晴紀、松本人志、松尾スズキ、渡部篤郎ほか/配給:ワーナー・ブラザース/R15+
2013年10月5日(土)全国ロードショー!
公式サイト http://www.r-100.com/