国をヴァンパイアの魔の手から救うリンカーンが頼もしい。ダイナミックな3Dアクションが満載。
エイブラハム・リンカーンは、ヴァンパイアハンターだった。そんな大胆で新奇な設定の歴史アクション映画が『リンカーン 秘密の書』だ。昼は大統領、夜はハンターというキャッチコピーも気が利いている。日本だったら”宇宙の土方歳三”的なものか。
原作を書いたのは、セス・グレアム=スミス。本作の脚本も手がけている。全米でベストセラーになった『高慢と偏見とゾンビ』の作者でもある。
『高慢と偏見とゾンビ』は、ジェーン・オースティンの原作『高慢と偏見』を、80%は、そのままの文章で使いながら、残りの20%は、ゾンビとの戦いにしてしまったマッシュアップ小説だ。いけ好かない原作の登場人物は、全てゾンビになってしまうなど、原作ファンも内心大喜びのサービス精神も徹底している。
リンカーン 秘密の書の原作本『ヴァンパイアハンター・リンカーン』も、それは同じ。エイブラハム・リンカーンの実際の日記を使い、ほぼ正確に彼の人生をなぞっている。ヴァンパイア・ハンターのフィクションパート(虚)と伝記部分(実)の組み合わせ方が上手く、奴隷解放宣言を行った理由などにも、それなりの説得力があったりする。
映画は原作の設定をうまく入れ替えながら、1時間45分にまとめている。ティムール・ベクマンベトフ監督は、『ウォンテッド』でも見せてくれた列車アクションまで盛り込み、モダンでスタイリッシュなアクションムービーとして仕上げた。
リンカーンは、斧を振り回してヴァンパイアを退治する。ダイナミックに優雅に。その姿は頼もしく、彼のことをそれほど知らなかったとしても(わたしのように)一気に興味を惹かれてしまうだろう。リンカーンの人物像は元々アメリカ初のスーパーヒーローと言われるぐらい、とても魅力的なのだ。
エイブラハム・リンカーンを演じるのは新進俳優のベンジャミン・ウォーカー。若き日のリンカーンの姿は、リーアム・ニーソンの若い版に見えなくもない。それはともかく、背が大きいので見栄えがするし、カリスマ性もある。
謎の男、ヘンリー・スタージェスを演じるのは、イギリス出身の若き実力派、ドミニク・クーパーだ。艶のある佇まいで映画に華やかさをもたらしている。リンカーンの妻、メアリー・トッドを演じるメアリー・エリザベス・ウィンステッドよりも遥かに色っぽいのはなぜなのだろうか?
映画は、鮮やか、かつ意味ありげな終わり方をする。もしかしたら? と、あらぬことを想像する観客もいるかもしれない。そういう観客がいたら(わたしも含めて)その通りなのだと言っておこう。サービス精神が旺盛な、セス・グレアム=スミスが、ファンは喜び、世間は怒る、そういう結末にしないわけがないではないか。(オライカート昌子)
リンカーン/秘密の書
2012年11月1日(木) 公開劇場:TOHOシネマズ 日劇他 全国ロードショー
オフィシャルサイト http://www.foxmovies.jp/lincoln3D/
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