『メリー・ポピンズ リターンズ』映画レビュー

55年の時を超えて『メリー・ポピンズ』が帰ってきた。リメイクではなく、完全な続編だ。場所はロンドン、時代は大恐慌。華やかでも浮き浮きした時代でもない。そういう時代にこそ、心がほんわかするような楽しいミュージカルが、似合っているかもしれない。

メリー・ポピンズは、魔法が使えるナニー(子どもの教育係)だが、魔法をバンバン使うわけではなく、目立たないようにそっと使う。『メリー・ポピンズ リターンズ』は、ファンタジー作品というだけでなく、子供の心に寄り添う映画だ。そういう意味で、主役は子供たち(あるいはかつての子どもたち)。

メリーは付き添い役で、あくまで教育係だ。

子どものころにメリーに世話を受けたマイケル、ジェニーの姉弟は大人となり、厳しい生活を余儀なくされている。妻を失ったマイケルは、銀行につとめているが、下っ端に過ぎず、借金の取り立てを受け、大切な家を失う一歩手前。こどもたちの世話も満足にできない。相手をしてあげる余裕もない。

そんなところにメリー・ポピンズが現れる。マイケルは、メリー・ポピンズとの楽しかった記憶もほとんど忘れている。うちにはナニーを雇う余裕はないと言うけれど、メリーは意に介さず、「扉が開くまでいます』と、あくまでもマイペースだ。

そしてファンタジーとミュージカルの幕が開く。最初は、なんのことはない、いくつかの突拍子もないシーンで溢れた派手で楽しいことがメインの作品に見えなくもない。ところが、後半になるにつれ、同じ曲でも意味や味わいに深みが感じられるように変わってくる。曲がそれぞれ、子供たちの成長に沿うように並べられているところに気づくと、興味もさらに膨らんでくる。

初めのお風呂のシーンは、メリーの存在を受け入れてもらうための、あくまでも楽しいもの。そして表面だけを見てはだめと(アニメーションとの共演シーン「A Cover Is Not The Book 」)と歌い、次に信じる心を育む(「The Place Where Lost Things Go 」)。

ものの見方は一つじゃないことを伝え、(Turning Turtle )、自立を促す段階まで導いていく(「Trip a Little Light Fantastic }。

ちょうど折り返し地点のTrip a Little Light Fantastic のシーンのすさまじいまでの力強さは、一気に目が覚めたような気分にさせられた。今回、本格的な映画初出演となるブロードウェイのミュージカル・スター、リン=マヌエル・ミランダ(ジャック)の圧倒的な歌唱力と魅惑のダンスに前のめりになってしまう。

メリー・ポピンズを演じるエミリー・ブラントに、前作でメリーを演じたジュリー・アンドリュースレベルの歌を期待するのは無理だけど、それを補う以上の実力で最高レベルの歌とダンスを見せてくれるのが、リン=マヌエル・ミランダだ。

前作へのオマージュや、原作へのオマージュもファンには嬉しい限り。特に脚本の巧みさを感じたのが、原作と違う、「扉が開くまでいます」の”扉”の正体だ。

『メリー・ポピンズ リターンズ』は、マジカルが詰まった宝箱のような作品だ。観客が大人であってもメリーの魔法がかかり、自分たちが大人になるまでの壮大な旅ををもう一度経験したような気分を味合わせてくれる。

(オライカート昌子)

メリー・ポピンズ リターンズ
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オフィシャル・サイト
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