『ジェーンとシャルロット』解説・映画レビュー 映画を通して変わる母娘の関係性

ジェーンとシャルロット解説

ジェーンとシャルロットとは

フランスで活躍する女優・歌手のシャルロット・ゲンズブールの初監督作品。母で女優・歌手のジェーン・バーキンの真実を探る家族ドキュメンタリー。

ジェーン・バーキンとは
(1946年12月14日 – 2023年7月16日)
イギリス・ロンドン出身の女優・歌手。エルメスのバーキンバックの由来でも有名。2回の結婚(一度目は音楽家のジョン・バリー、二度目は、映画監督ジャック・ドワイヨン)と一回の事実婚(セルジュ・ゲンズブール)で三人の娘を授かる。

シャルロット・ゲンズブールとは
1971年~ フランスの女優・歌手

『ジェーンとシャルロット』映画レビュー 母娘の関係が変化していく様子の爽やかさ


ジェーン・バーキンとシャルロット・ゲンズブールの私生活にそっと招き入れられたような感覚だ。冒頭は、日本でのジェーン・バーキンのコンサート。その楽屋に招待される。そして旅館滞在。母と娘の自由な会話。

シャルロットが撮るプロフェッショナルで美しいジェーンの写真も挟まれる。常に写真を撮られてきたジェーンは、被写体として完璧で、美しさとビビッドさには、見ていて心地良さがある。もちろん、70代の老いはそのままで。

映画の大部分は、海岸沿いにあるジェーンの田舎の家で撮影が行われている。だからバカンス用の私邸にも、観客は招かれているわけだ。美しく、大きくて古く、お洒落な乱雑さに満ちたくつろぎの空間だ。


映画を通じて、ジェーンとシャルロットが交わす会話の質が変わっていくのが、見どころだ。母と娘の関係には、かすかな緊張が張り巡らされている。その緊張の針金は、時間が経つにしたがって、少しづつ緩み始め、ふたりの関係が変わっていく。

より親しく、より理解しあう関係に。その過程は、ジェーンとシャルロットの過去と未来さえ取り込み、スリリングな歴史感覚も与えてくれる。ジェーンの若き日、母としての立場、妻、恋人としてのあり方も。

華やかな歌手、女優、二度の結婚、フランスの超有名アーティストとしてのキャリアも、長い目で見れば、どうってこともない。どんな輝きがあったとしても、それは過去に過ぎない。


悲劇や苦しみは、光より強くジェーンの心に巣くっている。それはどうしようもないものだ。それを近くて遠い存在の娘、シャルロットにわかってもらえることの安寧。それは、シャルロットが、『ジェーンとシャルロット』というドキュメンタリーを作る意図でもある。母ともっと一緒にいたい。わかりあいたいという願い。

多くを得て多くを失ったジェーン・バーキンの生涯と、シャルロットの今後の人生が爽やかに心に染み入る。映画を通して暗色から温かみのある色に変えていくようでもある。

ところで、ジェーン・バーキンの悲しみの原因は、もう一人の娘、ケイトのことなのだが、その出来事がもたらしたことは繰り返し語られるものの、詳細は、映画では明らかにしていない。それはわざとなのか、語るには悲しすぎるからなのだろうか。

(オライカート昌子)

ジェーンとシャルロット
2021年製作/92分/G/フランス
原題:Jane par Charlotte
配給:リアリーライクフィルムズ