『きみの瞳(め)が問いかけている』映画レビュー

極上のラブストーリーを見たいときってないだろうか? 

若さ真っただ中の高校生のほのかな恋愛映画は溢れているけれど、大人の心を温めてくれるような恋愛映画には、なかなか出会えないもの。

恋愛映画が多いイメージがあるヨーロッパ映画でも、変化球が多い。年配の恋愛とか、不倫とか。もっと直球的なものが見たいのに。

『きみの瞳(め)が問いかけている』は、久々に出会ったストレートな恋愛映画だ。

30代の女性、明香里(吉高由里子)は、事故で両親を亡くし、その事故で視力を失っていた。それでも日々明るく過ごし、コールセンターで働き、自立していた。彼女の楽しみは、駐車場の老管理人と一緒にテレビドラマを見ること(聞くこと)。

ところが、ある日、テレビを楽しみに行くと、そこにいたのは別の男性。それが、過去の傷から必死に立ち上がろうとする若い青年、塁(横浜流星)との出会いだった。

環境も年も違う、接点などあるはずのない二人は、次第に距離を縮めていく。だが、二人は悲劇的な過去で結びついていた。塁は、それに気づいたことで彼女のために離れていく。

ストーリーの流れは、ジェットコースターを思わせる。出会いからの過程は丁寧でスムーズに描かれ、過去が追い付いてきて真相が明かされる後半は、起伏が大きい。

『きみの瞳(め)が問いかけている』は、エンターテイメントとして徹底している。泣かせて二コリとさせてホッとさせる。そして胸を温める。

同じ三木孝浩監督の『僕等がいた(2012)』以来の恋愛映画に挑んだ吉高由里子は、気分を明るく元気にしてくれる、健康な存在感が格別だ。

最初のころの、ごくごく閉じた小さな世界に満足して生きていた明香里は、見るからに野暮ったい。自分の姿を鏡で見ることができないのだから仕方ないのだけれど。

それが、恋が染み渡るにつれ、みるみる美しく変化していく。その変化が心を弾ませてくれる。

塁を演じる若手の有望株、横浜流星の存在感は、シャープそのもの。

明香里が柔らかな丸みを帯びているとすると、塁はトゲトゲした三角。決して馴染むはずはないのに、後半の大波を経験して、角がとれた塁は、明香里としっかりと溶け合う。

この作品は、韓国映画を原案にしている。どこかアジアンな雰囲気や、多少日本の常識とのズレやご都合主義的なところはある。例えば、明香里が家で襲われるところや、事故の場面や闇キックボクシングの存在など。

それでも三木孝浩監督は、恋愛映画の名手として吉高由里子の輝きを最大限生かし切って見せてくれた。そこが嬉しい。やっぱり秋は、ストレートな恋愛映画が見たい。

オライカート昌子

 『きみの瞳(め)が問いかけている』
10/23(金)全国ロードショー
©2020「きみの瞳が問いかけている」製作委員会
©2020 Gaga Corporation / AMUSE Inc. / Lawson Entertainment,Inc.
2020/日本/123分/G/
監督:三木孝浩 
キャスト:吉高由里子 横浜流星
やべきょうすけ 田山涼成 野間口徹 岡田義徳/町田啓太/風吹ジュン
配給:ギャガ