ユダヤ人美術商一家が所持するミケランジェロの絵画をめぐる、ナチス・ドイツと一家の息子の壮絶な攻防戦を描いたサスペンスドラマ。『ヒットラーの贋札』のスタッフが再び結集し、『es[エス]』や『ソウル・キッチン』のモーリッツ・ブライブトロイを主演に迎えて贈る。
テーマは「ナチス」だし、真面目で暗くて重い映画を予想していたら見事に裏切られた。この面白さは何なんだ!ほとんどコメディと言っていいくらい軽妙なドラマだったのだ。主人公で美術商一家の息子・ヴィクトルは、友人ルディにミケランジェロの絵画の存在を話してしまう。ナチス・ドイツに心酔するルディは、親衛隊への入隊と引き換えに絵画の在り処を政府に密告。ヒットラーとムッソリーニの会談を控える政府は、友好条約の材料にするため、一家から絵を没収。が、実はこの絵が贋作であることが分かり、ヴィクトルの父親のある計画が浮き彫りになっていく。それを知ったヴィクトルは、絵を取り返すために無謀な行動に出るのである。
冒頭シーンにもなっている、親衛隊となったルディと、捕虜として捕らえられたヴィクトルが乗る飛行機墜落の場面が再登場したとき、本格的なサスペンスが始まる。命拾いした2人は、後のことを考えて(と言うより、ルディがヴィクトルに言いくるめられる)服を交換。2人は入れ替わり、ヴィクトルはこのときから「ナチス親衛隊のルディ」を演じることになる。ルディは泣いても叫んでも誰にも信じてもらえず、踏んだり蹴ったりの散々な目に遭う。もともと、ルディは口では大きなことを言っても、所詮は頭が悪くずるがしこいだけの小男。ヴィクトルの方が一枚上手なのである。
2人の駆け引きから一瞬も目が離せず、最後に笑うのは一体誰なのかと気になって仕方がない。物語は最後まで二転三転し、見事な脚本を堪能できる。最終的に政府が味わうトホホな末路も笑いどころ。タイトルにもなっている「暗号」は予想がつきやすいが、謎解き映画ではないのでそれはどうでもいい。痛快な幕切れも、実にカッコイイ。
監督は、「ユーモアのあるナチスもの」を目指したと言う。既にドイツ映画の顔とも言うべきモーリッツ・ブライブトロイの熱演も素晴らしいが、ルディを演じるゲオルグ・フリードリヒがスゴイ。『イングロリアス・バスターズ』のクリストフ・ヴァルツに匹敵するインパクトだ。これまでのナチス映画に対する固定観念を覆す映画(しかもドイツ映画)。必見。
(池辺麻子)
ミケランジェロの暗号
9月10日(土)より TOHOシネマズ シャンテ ほか全国ロードショー
オフィシャルサイト http://code-m.jp/