『アーニャはきっとくる』映画レビュー(感想)

『アーニャはきっとくる』は、『ストレンジャー・シングス 未知の世界』で注目を浴びたノア・シュノップ主演の作品。ユダヤ人迫害の映画の映画としてはかなり異色の感動作だ。今までなかった映画といっていいかもしれない。

原作者は、『戦火の馬』のマイケル・モーバーゴだ。『戦火の馬』も第一次世界大戦を舞台にしながら、美しい栗毛の馬ジョーイの運命を描くことで、ほかの戦争映画との違いを出していた。

『アーニャはきっとくる』も、動物たちが重要な役割を果たしている。主人公のジョーはフランス・スペイン国境の小さな村に住む少年、学校に行きながら、羊飼いをしている。

ジョーは、ユダヤ人のベンジャミンと出会ったことで、ユダヤ人の子どもたちを保護し、山越えをしスペインに逃がす手助けをすることになる。

ジョーがベンジャミンと知り合ったきっかけは、熊だ。

国境警備のために駐屯しているナチスの中尉と心を通わせることになったきっかけは、鷲。

単に風景の一部にしか思えなかった羊たちも、『アーニャはきっとくる』のなかではかなり重要な役割を果たす。

熊、鷲、羊。人々。

そしてピレネー山脈の雄大かつ美しい自然。

単にユダヤ人迫害映画と思えないようなパーツが『アーニャはきっとくる』を支えている。

通常の第二次世界大戦を描いた映画では、対立軸をはっきりさせる。どちらの側に立つか視点や善悪もきっちり描く。たいていナチスは悪側だ。当たり前すぎる視点だけど。

『アーニャはきっとくる』でも、ナチスは平和な村を侵害していく邪魔もであり、その事実をないがしろにしているわけではない。

だが均等な眼差しをを忘れない。そのまなざしは、熊や鷲や羊への寄り添う視線とも共通だ。

マイケル・モーバーゴ原作作品は、人間のみならず、地球に住む生き物、さらに地球そのものも含んだ大きな高いところから俯瞰する。

そういう意味でとても珍しい。新しい融和の時代が開いていくような気持ちよさを感じさせる作品となっている。

オライカート昌子

アーニャはきっとくる
配給: ショウゲート
2020年11月27日(金)
新宿ピカデリー ほか全国ロードショー
公式サイト:CINERACK.JP/ANYA
(c) Goldfinch Family Films Limited 2019
2019年製作/109分/G/イギリス・ベルギー合作
原題:Waiting for Anya