『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』  鬼才ビー・ガン監督! 25分間インタビュー

映画館によって異なるが、

観客は入場時、3Dメガネを受け取ることになる。

係員いわく、

「映画の主人公がメガネをかけたら、あなたもかけてください」と。

この映画には後半、3Dが待ち構えている。

それも60分近い驚異のワンカット映像だ。

私たちは主人公の肩につかまって奈落に落ちていく。

それは想像を絶する終演まで続き、

ラストの絵は私たちをあの世に放ってくれるかのように美しい。

お約束しよう。

誰しも映画館(暗闇)を立ち去り難くなるはず。

『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』はそんな麻薬映画だ。

この傑作に出会ったのは、2018年の東京フィルメックス映画祭だった。

ジャ・ジャンクーの『アッシュ・イズ・ピュアレスト・ホワイト(原題)』、

ホン・サンスの『川沿いのホテル』と『草の葉』、

フー・ボーの遺作『象は静かに座っている』、

愛すべきペマツェテンの『轢き殺された羊』などなど、

話題作ひしめくラインナップにこっそりと潜んでいた。

当時のタイトルは、『ロングデイズ・ジャーニー、イントゥ・ナイト(仮題)』。

1回だけ上映されると知った映画ファン。チケットは秒殺で売り切れた。

公式カタログにはこんなあらすじがある。

「舞台は、中国貴州省の凱里(かいり)。

父の葬儀のために久しぶりに帰郷したルオは、ネオンに彩られた街を歩く。

過去の記憶がルオの脳裏に断片的によみがえる。

別れた恋人とのロマンス、ヤクザとの抗争、そして命を落とした親友の思い出。

やがて、ルオは3D作品を上映中の映画館にふらりと入る・・・」

監督は、これが長編第2作目となるビー・ガン。

映画の舞台と同じ、凱里生まれの31歳。

奇談才能あふれるこの若き監督に思いの丈をぶつけてみた。

死を目前とした男ルオ。その走馬灯のような映画でした。

監督「そう感じていただけたなら嬉しいです。その感覚は的を得ていますよ」

語られるエピソードは、恋人への懺悔、人生における後悔、

そして、母への謝罪(でしょうか)。

いずれも男にとって身に覚えのある断片です。笑

監督「もちろん、この映画は男の物語りであると同時に、女の物語りでも

あります。女の目線でいうと、自分が愛する人をどのように迎え入れればいいのか、

本当に愛しているのかどうか確信が持てない、と映るのでしょう。

この映画は、男と女の物語りが合わさってひとつの物語となるのです」

後半は、主人公ルオが全てを脱ぎ捨てて覚醒していくというか、

なんとも知れない「浮遊する感覚」がありました。

見終わってネット検索していたら、映画の海外版ポスターを見つけて

ギョッとしたんです。

ポスターにシャガールの「散歩」という絵がディフォルメされている。

それはまさに宙を浮遊する男女の絵でした。

監督「デザイナーたちといかに簡潔に映画のイメージを伝えられるかを

侃侃諤諤して作ったポスターです。

映画に登場する男女2人の関係性がうかがえるものにしたつもりです」

監督のシャガール愛は、映像はもちろん、エピソードにもあふれていましたね。

浮遊する男女のイメージはもとより、シャガールの三種の神器と言える

「カーニバル」「石造りの街並み」「牛や羊といった動物」が、

それぞれ「歌謡ショー」、「迷路」、少年が被る「動物の頭がい骨」として

描かれています。

監督「映画を撮る前にメイン・スタッフとこれから作る映画の雰囲気や

質感を共有していきますが、私はシャガールの『散歩』と『誕生日』の

2作品をイメージとして伝えたのです。

それを元に美術班はセットを組み、撮影班はライティングを考えていった

わけです。シャガール好き? これでお分かりでしょ(笑)」

カンヌ映画祭で絶賛を浴び、この映画がさらに国際的に注目されたのが

中国本土での興行ですね。

中国のタイトルが「地球最後の夜」を意味することから、

2018年12月31日に公開したイベント的な上映。

そこで、すべての劇場で21:20開映、終映を0:00ちょうどにした!

監督「(笑顔で)そうそう」

「映画『ロングデイズ・ジャーニー』を大晦日の最終回に見て、

映画の終わりと同時に、恋人と年越しのくちづけを交わそう」という

スローガン。たった1日で41億円の興行収入を記録したらしいですね。

人によってはこれほどわかり難い映画はない(笑)と言われますが、

ビー・ガン監督はアート作品を描いているの? 

それとも多くの観客を呼べる商業映画を目指しているの? 

どちらに重きを置きますか。

監督「撮っている時にそんなコトは考えもしませんが、

撮り終えたものを見るとやっぱりアートフィルムに属するなぁと感じます。

興行的に多くの人に見てもらいたいと思っていても、

アートフィルムになってしまう。

だから、多くの人には理解しづらい、そしてアートフルで私的というか、

個人の情感をより多く描写しているような作品と思われがちなのです。

しかし、アートフィルムとはいえ、僕を含め多くの人が共有できる部分は

描いているはずです。見方によっては理解できなかったり、

ある部分に到達できない場合もありましょうが、

僕が伝えたいメッセージはけっこうシンプルなものなのだと

会得してくれるでしょう」

きっと、そこが映画作家冥利につきる部分でしょうね。

いつも、一から十まで説明して見せてハイ終わりじゃつまらない。

なにか疑問でも持たせて終わる映画、後々議論される映画の方が魅力あります。

監督「そう、僕は設問者でありたい。問いを投げる側。

投げた問いにどう応対してくれるか、どう解決してくれそうなのか。

それをみんなが共に参画して考えていければいいと思います。

海外でも中国でも、あの主人公ルオは生きているのか、死んでいるのか、

いまなお議論されているんです」

なるほど、やっぱりね。笑

監督「何百万人もの『中国大晦日アートフィルム共同体験』は

これまでの歴史上なかったことです。

批判もあったし、わからない、わかりづらい、

あるいは、好きだという様々な意見がありました。

僕個人の見解として、それらにコメントするのはまだ時期尚早。

まだ、一年ちょっとしか経っていないし、見方は自由ですからね。

ただ、いまのマーケットにおいて、『1日で41億円』とは

とてもオモシロく、とてもロックなことだと思います。

これが今後の映画市場にどんな結果を、またどんな影響を与えたのか。

その答えにはもう少し時間が必要でしょう。

ここで言いたいのは、僕は設問者であると同時に、

爆破者でもあるということなのです」

ビー・ガン監督の熱量とは異なり、

映画『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』は

静かなエンディングを迎える。

ただ、各国映画祭で使われたエンディング曲は変更されている。

本来であれば、中島みゆきの「アザミ嬢のララバイ」だった。

ララバイ、つまり子守唄が流れるのである。

だから、冒頭に、

「誰しも映画館(暗闇)を立ち去り難くなるはずだ」と表現した。

インタビューを終えてから、著作権料が高くて使用できないことを知った。

ただ、ビー・ガンの世界観は少しも色褪せてはいない(はずだ)。

できる限り、3D上映で体感し、自ら覚醒してほしい、

そんな映画である。

(武茂孝志)

『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』

2月28日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿ピカデリー、

池袋HUMAXシネマズ、シネ・リーブル梅田、なんばパークスシネマ、

京都みなみ会館、シネ・リーブル神戸、他にて全国縦断ロードショー

ビー・ガン監督作品

タン・ウェイ

ホアン・ジエ

シルヴィア・チャン(特別出演)

チェン・ヨンゾン

リー・ホンチー

2018年製作/138分/G/中国・フランス合作

原題:地球最后的夜晩 Long Day’s Journey Into Night

(C) 2018 Dangmai Films Co., LTD, Zhejiang Huace Film & TV Co., LTD – Wild Bunch / ReallyLikeFilms

配給:リアリーライクフイルムズ+ドリームキッド

提供:basil+ドリームキッド+miramiru+リアリーライクフイルムズ