まずはちょっと寄り道。
40年前のオーストラリア映画、『誓い』(1981年)。
往年のファンは、この映画を思い起こすだろう。
監督はピーター・ウィアー。若きメル・ギブソン主演の戦争ドラマ。
同年、オーストラリア・アカデミー賞の作品賞、監督賞、主演、
並びに助演男優賞など主要部門を片っ端から取った名作だった。
物語は、1915年、第一次世界大戦下のオーストラリアに始まる。
長距離走で負け知らずの少年2人がイギリスの援軍に志願する。
派遣先はトルコの北西部、ガリポリ半島。
その前線で幼馴染の2人は再会する。
その類まれな俊足を持つ2人に重要任務がくだる。
それは、最前線に戦闘中止を伝えるために
激戦地を走り抜けることだった。
号令のもと、砲弾をかいくぐりながら全力で走り始める少年2人。
まわりの兵士たちが次々と身体を撃ち抜かれていく中で、、、。
公開当時の1980年前後といえば、
『スター・ウォーズ』『E.T.』『ターミネーター』『エイリアン』など
ハリウッド製SF大作が幅を利かせていた時代。
それまでのドル箱映画王道であった戦争ものは、
興行(旨み)に結びつかない「遺物」として消えつつあった時代。
『誓い』は、『クロコダイル・ダンディー』などオーストラリアの
名匠ラッセル・ボイドの自由自在なキャメラ、
そして『マッドマックス』を手がけた作曲家ブライアン・メイの
きびきびと小気味良い音楽も懐かしい映画だった。
なによりも、伝令兵2人の涙をこらえる表情が忘れがたい名作だった。
夜、照明弾で美しく浮かび上がるガリポリの地、死を予感させる
アルビノーニの曲「アダージョ」と一瞬の静寂は決して忘れない。
このあたりが、本題の『1917 命をかけた伝令』と瓜二つなのだ。
決定的な違い。それは『1917 〜』が、
全編ワンカットで語られる映画であることだ。
いま流行りの、(猫も杓子もふう)安易なワンカット映画ではない。
鼻持ちならない偉そーな芸術映画でもましてや実験映画でもない。
当然すぎて安っぽく映る戦争反対のメッセージもない。
紛れもなく超一級のエンタテイメント映画なのだ。
そこに掛け値なしの臨場感と緊張感が生まれた。
撮影は、大傑作『ノーカントリー』(07)や
『ショーシャンクの空に』(1994)のロジャー・ディーキンスが担当。
編集は、傑作『インターステラー』(14)、『ダンケルク』(17)など
クリストファー・ノーラン監督の右腕リー・スミスが務めている。
ワンカット映画なら、編集はいらないって?
そこにエンタテイメント映画の真髄がある。
どこでどう編集されているのかを辿ってみるのも一興なのだよ。
ドイツ軍によって、通信手段もすべて断ち切られた戦場。
食料も底を尽き、屍あふれ悪臭漂う塹壕の中で、
脚力と地理に秀でる2人の若者が秘密裏に重大任務を受ける。
ドイツ軍の罠を知り、10キロ先の最前線にいる1600人もの仲間を
救うべく、「作戦中止命令」を一刻も早く伝達すること。
将軍たち上官らは、誰もが任務は失敗に終わると思っている。
そりゃそうだ。塹壕から頭をヒョイと出すだけで、
敵の集中砲火を浴びるに決まっている。
そもそも2メートル先に倒れる同胞も葬ってやれない状況が
続いているのだ。
運良く数メートル進めたとしても、周辺には
カミソリのような有刺鉄線が知恵の輪のように張り巡らされ、
ぬかるんだ砲弾穴に落ちると底なし沼のように飲み込まれてしまう。
行く先々にはドイツ兵が仕掛けた地雷や、
スナイパーの銃口も息を潜めて狙っている。
伝令先は遥か先。タイムリミットはわずかに翌朝。
はたして2人の若者は、1600人もの無駄死にを阻止できるのか。
Netflix大躍進で、映画興行界の危機、
アカデミー賞ターニング・ポイントの年と言われる2020年初頭。
こんな時代に、「映画ここにあり!」と名乗りを上げたのが
『1917 命をかけた伝令』なのだ。
ほらね、『誓い』登場時の時勢と瓜二つでしょ。
そんな「映画」だから、もちろんスクリーンで見たい。
できれば、IMAXの大スクリーンで見たい!
そんな傑作映画の登場だ。
映画『1917 命をかけた伝令』
公開日:2月14日(金)、 全国ロードショー
監督:サム・メンデス
脚本:サム・メンデス、クリスティ・ウィルソン=ケアンズ
製作:サム・メンデス、ピッパ・ハリス
出演:ジョージ・マッケイ、ディーン・チャールズ=チャップマン、
ベネディクト・カンバーバッチ、コリン・ファース、マーク・ストロング
2019年製作/119分/G/イギリス・アメリカ合作
原題:1917
配給:東宝東和
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